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飴の蜂屋・神頼み編【鉢雷鉢】

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 今でこそ小綺麗な三郎は、ある日突然、みすぼらしい格好で店先に現れた。
 着物の端は破れ、笠の下は煤けてよく見えない。何より鼻の奥をつく、凄まじい匂いだった。
 飴屋は食べ物を売る場所。どこか話したそうなのを問答無用でつまみ出すところを、雷蔵が止めた。こんな汚い乞食にさえ優しい主に感動しかけたのもつかの間、笠の下から出てきた顔に心の臓が危うく止まりかけた。
『失礼ですが、蜂屋の雷蔵さんでしょうか』
『ええ、はい、そうですけれども。あの貴方は……』
『お分かりいただけるでしょうか。私、三郎と申します。雷蔵さんの弟でございます』
『ええっ!』
 にわかには信じがたい話だった。八左ヱ門が知る限り、雷蔵に弟なんていたことはない。
 何はともあれ、風呂に入らせ、汚れを落とすと、さっぱりした雷蔵の双子の弟がいた。さてどうしたものかと事情を聞くと、真新しい着物が落ち着かない様子の三郎は、これは助かったとばかりに話を始めたのだった。
『ではまず、私たちが兄弟である証拠をお見せします』
 ばさりと置かれたのは一冊の本だった。控えていた八左ヱ門は失笑した。たかが本、うさんくさい証拠だ。ところが雷蔵は表紙を見ただけで息を飲みかたまっ てしまったので、ただ事ではないのかもしれない、と代理で開いた。八左ヱ門の手が、めくるごとに汗でぐっしょり濡れていく。
『これは……うちの秘伝書じゃないですかい!』
 飴の製法から、発想法まで、蜂屋のいろはが記されている。門外不出で、そもそも一冊しかないもののはずだった。おそらくこの店では番頭と雷蔵しか読んだことがない。
『先代が、おっかさん……私の育ての母に託したものと聞いています』
『三郎さん、詳しく聞かせて下さい』
 雷蔵が頬を真っ赤にさせている。三郎は一拍おいて続けた。
『ええ。そもそも、私がなぜ別に育てられたのかを申し上げねばなりませんね。雷蔵さんと私の家では、双子が不吉という風潮がありまして。ひどいときには 弟……先に生まれた方を、殺してしまう事もあったそうなのです。それだけ、我が家においては根深い話でした。……ああ、そんな顔をしないでください。私は こうして生きております』
 はっと恥ずかしそうな雷蔵に、八左ヱ門はなぜか複雑な気持ちになってきた。雷蔵の、今みたいな顔は見たことがないように思えた。