私のやんごとなき王子様 利根編
「――ありがとう、小日向さん。明日頑張ればいよいよ本番だね。今日はしっかり休んで、後一踏ん張り頑張ろうね」
「うん!」
「それじゃあ、俺は戻るけど、小日向さんは?」
「私はもう少しここで風に当たりたいから、気にしないで戻って」
「分かった。じゃあね」
そう言うとくるりと体を反転させて去って行く利根君の後ろ姿に、私はほうっとため息を吐いた。
もう一度私は宿舎の方を仰ぎ見た。気付けば島は野球ボールくらいの大きさにまで遠くなっていた。
私はここで経験したたった1週間の出来事を、一生忘れないだろう。
それから何事も無く無事に学園に戻り、校長先生の話を聞いた後、私は帰路についた。
校門には相変わらずの高級車の群れが出来ていたけど、私とさなぎには関係ないもんね。
くやしいかなさなぎは彼氏の米倉君と一緒に帰るといういうので、気を利かせて私はせっせと自分の足で歩き、1週間ぶりの我が家へと一人戻った。
「ただいま〜」
「お帰りなさい!」
玄関ですぐさまママが迎えてくれた。
久しぶりの自分の家の空気に、心からホッとすると同時に、疲労がどっと全身を襲う。
うん、今日はぐっすりと眠れそう。
そして目覚めたら、もうひと踏ん張り頑張らなくちゃ。
ベッドに入ると、頭の中で色んな事が渦巻いた。
演劇祭の事、利根君の事、水原さんの事――――
たくさんの思いが網膜の裏を横切るのを感じながら、私は眠りについていった。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文