私のやんごとなき王子様 利根編
「ふふっ、君は知らないと思うけど、小日向さんがクラスの子が玲の悪口を言った時に庇ってくれたそうなんだ。玲の事を知りもしないで悪く言うのはおかしいってね……玄関で玲が偶然その会話を聞いたんだって」
「あ……」
そう言えばそんな事があったかもしれない。そうか、あの時風名君聞いてたんだ……
「俺はそれを聞いた時ちょっと悔しかった。ずっと一緒にいた俺じゃなくて、クラスメートの言葉の方が玲を立ち直らせられるんだってね……でも同時に、そんな女の子がいるんだってすごく興味もわいた。玲を元気に出来る子は、一体どんな子なんだろうって」
え?
海から利根君へ視線を戻すと、利根君が優しげな表情で私を見ていた。その視線に胸が躍る。
「それで、2年になって委員で偶然小日向さんと一緒になった時に嬉しかったんだ。この子が玲を励ました子なんだって。そして一緒に仕事をやっていく中で納得した。君は本当にいつも一生懸命で、嘘を吐いたり人を騙したりしない。俺の周りにいる大人達とは全然違った……」
「利根君……」
また一瞬悲しそうな顔をすると、利根君が私の手を握った。
「っ!?」
驚く私に微笑み、利根君が歩き出して手を引いた。
「そろそろ戻ろうか? 風が出て来た」
「う……うん」
鳴り止まない心臓の音に自分の声がかき消される。
「嫌な事があったり辛い事があっても、小日向さんの笑顔を見るとなんだか元気になるんだ。俺は汚い大人の世界ばかり見て来たから、君のその真っ直ぐな言葉が眩しいんだ。そしてもっと話したい、もっと君の笑顔を見たいって思う」
ドキドキしすぎて良く聞き取れなかったけど、利根君は私の事を褒めてくれているみたいだ。
どうして?
繋いだ利根君の手は夏だというのに少しひんやりとしていて、少しでも私のこの熱が利根君に伝われば良いのにって思った。
そして、水原さんはどんな気持ちで利根君に好きだと告白したのだろう。卑怯な私は、利根君の優しさに甘えてばかりいる。
こうやって褒めてもらえるようなものは、何一つ持っていないというのに……。
作品名:私のやんごとなき王子様 利根編 作家名:有馬音文