ここで、おわりだ
ここで、終わりだと青年は言った。
はたと止まってしまった横の青年を見上げて足を止め、終わりですか、と少年は続けた。
ここから先に未来はなく、始まりもないのだと青年は言う。
とめどなく続く銀色の世界、影すらもかき消すような白、地平線まで続く世界を見渡して少年は一本だけの道を見る。どこまでもただ一つきり続いている道がある。
何故ですかと少年は尋ねた。それは青年への問いかけだった。
少年にとって行く当て所ないこの旅は、青年に手をひかれて始まった。昔のこと、どこへ行くのかと尋ねたことばに、青年は道の先を見に行こうとだけ言ったのだ。
その道は、はるか地平線をも超えて続いているのだろう、けれどもここで終わりだと青年は言う。見えないのだろうか、この切り裂くようにして伸びた一本だけの道が。
青年は、沈黙を称えた少年を横目に言う。
だから君とはここでお別れなのだ。
その言葉に少年は首を傾けた。
ならば自分はここから一人きり、歩きださねばならないということですかと、少年は青年に尋ねた。
しかし青年は少年に言葉を返しもせずただただ静謐に笑い、いつだって顔を隠すようにかぶっていた帽子を少年の小さな頭に乗せた。少年は少し首をすくめる。
青年はただ眩しそうに眼の前の道を、あるいはただの白い世界を眺めて、それから笑顔でも何でもない顔をして少年を見た。
無骨に並んだ目鼻はけして綺麗とはいえない。初めて見た青年の顔にそんな感想を浮かべてから、少年は貰った帽子を目深に被った。
ややの沈黙があった後、終わりですか、と今度は少年が言った。
ああ終わりだと青年は応えた。
ならばここで何をするんですか、と少年は尋ねた。
さあね、と青年は応えた。
実際、青年はここに残って何をするのか分かっていなかったのだ。ただわかっていたことは、ここで少年と別れなければならないこと、自分はこれ以上進めないということだけだった。
そうですか、と少年は言った。
そうだとも、青年は返す。
少年はいくら待ってもなかなか歩き出そうとしなかった。
けれども青年は、これ以上少年に声を掛けようと思わなかった。
沈黙ばかりの世界の中で、二人きりで佇んでいる。
青年はぼんやりと少年の行く末を考えた。こことどのように違うのか考えようとしてすぐにやめた。それは少年が考えるべきことであって、青年が考えることではないからだ。
それから青年は、さてはて、はるかな昔、自分に帽子をくれた青年もこんなことを考えて自分を見送ったのかと少しばかり逡巡して考えた。
そうして考えていると、もしかしてこの少年はいつぞやの自分のようなものではないかと思うようになった。
目深にかぶった帽子のせいで少年の顔を見ることはできない。ずいぶん長い間一緒に歩いていたが、自分が一度も少年の顔を見たことがないといまさらながらに思い当った。
ああ、それで良かったのか。青年はやっと気がついた。そうして、少年を見下ろした。
帽子のつばから突き出た赤らんだ鼻を、すんと少年が鳴らす。
ここで終わりですか、と少年は呟いた。
青年は返す言葉を持っていなかった。