すきなひと
好きな人は女だ。ちなみに、あたしも女だ。
以前、それなりに彼氏はいたことがあるが、本気で大切に思える人がいなかった。
それよりもあたしの幼なじみ、藤堂ゆきといる方が楽しかったし、なによりゆきのことが一番大切に思えた。
つまり、あたしはゆきが好きなのだ。
なんの迷いもなく、そう思えた。
だけど、
「気持ち悪い。」
もし、そう切り捨てられたらと思うと、好きだなんて事は伝えられるわけがない。
拒否されることが恐くて仕方がない、どうしたらいいか分からない。
それがあたしの現状だった。
なのに。
「ようこ!どうしよう、あたし・・・・・またふられちゃった」
なのに、ゆきはそんな心境も知らずに泣きそうな笑顔でまたあたしの所へ来る。
ゆきは正直言って騙されやすいし、男を選ぶのがへたくそ。大抵お金を取られてすぐ捨てられる。
そんなことを繰り返したら、免疫ってものもつくはずなんだけど。
「またぁ!?」
そう繰り返し騙されるような女もいるわけだ。
ほんと、バカなやつ。
まあ、そんなところだって好きなんだけど。
「うん、なんか最初からお金目当てだったみたいなんだよね」
あたしは本気だったのにな、と付け足しながらゆきは微笑んだ。
イライラした。その男にも、ゆきにも。
なんで笑うの、泣けばいいのに。
あたしなら、ゆきを絶対に泣かせたりしないのに。
ゆきを振った男に嫉妬する。何であたしじゃダメなんだろう。
「怒らないでよ。もともとあんなの選ぶあたしが悪いんだし」
・・・どうやら怒りが顔に出ていたらしい。
「怒ってないよ。ただ、あたしの前だってゆきは笑うでしょ。なんで泣いてくれないの」
「え、」
「あたしだってたまにはゆきに泣いてほしいし、そんな笑顔のゆきは嫌い」
あたしは黙り込んだ。
ゆきの全部が好きなわけじゃない。
あたしが好きなのは、振られてもまた新しい恋に走っていけるその根性と愚かさだ。
こんな風に笑うゆきなんか好きじゃなかった。むしろ嫌いだ。
だから、
「また新しい恋するんでしょ」
あたしはゆきの身体を抱きしめた。
なぐさめなんかじゃなくて、ゆきのことが好きだから腕に力を込めた。
顔を上げられないくらい恥ずかしい。
こんな下心を知ったら、ゆきはあたしを嫌いになるだろうか。
それでもいいとさえ、その瞬間は思った。
ふいに腕の中でゆきの肩が震えていることに気がついた。
ゆきは泣いていた。
あたしだって泣きたい。ゆきに「あたしを好きになって」と言いたい。
でも泣かなかった。この気持ちは隠していくと決めたから。
あたしだけの想いだ。
ゆきの肩に顔をうずめる。
「あのね・・・ようこ。あたし本当に毎回バカみたいに振られてくるけど、
そのたびに立ち直れるのはようこがいてくれるおかげ」
「うん」
「だから、また、がんばるから」
「うん。あたしはそんなゆきが好きだ・・・」
ゆきが顔を上げる。ゆきは涙を流しながら笑っていた。
「あたし、いっそのことようことつき合おうかな!」
いたずらっ子のようにそう言うと、「冗談だけど」と付け足してゆきはあたしの腕を解いて立ち上がった。
相変わらずこんな甘い毒みたいな嘘を平気でつく。
嘘が悲しい 。
「なんでようこがそんな顔するの、心配しないで。今度はいい人絶対見つけるから」
あたしは今、どんな顔をしているんだろう。
ゆきには、心配しているように見えたんだろうか。
違う、心配なんかしてない。
本当は振られたって泣きついてきたとき、嬉しかったんだ。
あたしを見てくれるんじゃないかって。
なのに、あたしはいつの間にかまたゆきを慰めて、いつまでもきっとゆきの幸せを優先させてしまうんだろう。
ああ、ゆきはバカだ。でもあたしはその数倍バカだ。
あふれる想いは止まることを知らない。
だから、あたしはきっとずっとバカのままだ。
あたしはまだ知らない。
この恋の行き先、止まるところ、その消息を。