私のやんごとなき王子様 土屋編
今日は実質の合宿の最終日。明日にはまたフェリーに乗って学園へと戻る事になっている。
大道具も大詰めで、皆必死に自分の担当と向き合っている。
「よしっ、ここまでにするか」
昼も過ぎた頃、担当の先生の声がかかる。
船に乗せて持ち運ぶ為に絵具を乾かす必要があるので、今日は今までの微調整くらいしかやりようがないのだ。
全体的なバランスを見た先生が、キリが良いと踏んで早めに切り上げる事にしたのだろう。
「はーっ」
「やったぁ」
「終わった〜」
「まだ学園戻ってからやる事あるだろ〜」
口々に皆が安堵の言葉を漏らしていく。
私も何とか形になっている事に心底ほっとしていた。
「君」
明日の準備を済ませた子達から部屋を出ていく。私も自室に戻ろうとした時、土屋君に声をかけられた。
「なぁに?」
歩みを止めた私に近付くと、土屋君はいつもの尊大な態度で言い放った。
「今日は花火大会だね。後で迎えに行くよ」
「えぇ!?」
「それじゃ」
それだけ言うと、サッサと部屋を去って行ってしまう。
本当にペースを崩さない人だな……。
呆れながらも心のどこかで喜んでいる自分がいた。
土屋君と一緒に合宿最後の夜を過ごせる!
自然と笑みが零れる自分が可笑しくて、自室に戻ってからも私はにこにこしっぱなしだった。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文