私のやんごとなき王子様 土屋編
「おかしくなんてない。それって本当に素敵な事だよ。皆で一つの物を作るなんて、中々出来る事じゃないもん。だから、そう言う中で一つの物を作り上げてくって言うのは、すっごく素敵な事だと思うし、そこで土屋君がそんな風に考えてくれてるなんて、本当に嬉しい。私だけじゃなくて、皆もそう思うと思う」
じっと土屋君の瞳を見つめながらそう言うと、土屋君は綺麗に笑った。
「そうか、有難う」
また言ってくれた。土屋君が私に『有難う』って。
土屋君のその感謝の言葉は、私の心を強くしてくれる。
水原さんの事を土屋君がどう思っていようとも構わない。
私は土屋君の事が好き。
だから少しでも土屋君の役に立てればそれでいい。
こんな風に感謝の気持ちを伝えて貰えるだけで十分だ。
土屋君と水原さんはお似合いだと思う。二人なら、芸術論だって私なんかよりはるかに長けた会話が出来るだろう。
それでも私は土屋君が好きだから。
「風が出てきたね、そろそろ戻るよ」
風に吹かれた髪をかき上げながら、土屋君が私の手を引いた。
「うん。土屋君、有難うね」
「いや」
静かな空間で二人でゆっくりと話が出来て、心が落ち着いたのが自分でもわかる。
正直、昨日は水原さんとの事が気になって余り眠れていなかった。
土屋君はそんな私の様子に気付いて、気分転換させてくれたのかな?
――まさかね。
でも今繋がれた手の温かさだけは紛れもない事実だ。
私はもう一度小さく微笑んで、土屋君の手をギュッと握りしめた。
作品名:私のやんごとなき王子様 土屋編 作家名:有馬音文