〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉
二の夢~砂満ちる場所での果てない口喧嘩のコト~
砂漠を走り抜ける真っ赤なスクーター。しかし、足場はまったく地面についていない。数センチほど宙に浮いている。
速いならまだいいが、速すぎるゆえに、運転が少し荒っぽい。
何度もバウンドしては、盛大な砂埃を巻き上げていた。
そんな爆走スクーターに乗っているのは、二人。
二人ともヘルメットをつけている。
運転している方は、目にも鮮やかな赤い半袖Tシャツに真っ黒なズボン、白いスニーカー。腰には、ホルスターに収められた赤い銃が見える。枯れ草色のマントをなびかせ、黒い手袋をはめた手が鮮やかなハンドル捌きを見せ、砂上を突き進む。
その運転手の腰の辺りにしがみついてる同乗者は、運転者に反して水色の半袖Tシャツに青いジーンズ、茶色い短い目のブーツ。同じように枯れ草色のマントを着ており、運転手の若干荒っぽい運転に落とされまいと、必死でしがみついている。
そして、同乗者は先ほどからこの荒い運転のことで、運転者にわめいていた。それは、少女の声だ。
「駆!!かーけーるっっ!!!もーちょい速度落としてよ!!」
「はぁ?!何か言うたか日向?ぜーんぜん聞こえへんで」
「嘘吐くな!!それだったら答えてないでしょーが!!」
「聞こえないゆーとるやんか!」
「だ・か・ら!!もうちょっと速度落としてってば!!」
「速度落とせ?!そりゃ無理!!」
「なんで!?」
「早よ帰りたいから」
「安全運転でも10分くらいで帰れるじゃん?!」
「このスピードやったらあと5分くらいでつける」
「大して変わりないじゃん!!そ、それにこの前みたいにまた『あいつ』に遭遇したら・・・」
「だーいじょうぶやって!!!」
「・・・なんで?」
「武器はもっとるし」
「うん」
「ガソリン満タンやし」
「はぁ」
「それに何より・・・」
「何より?」
「この駆様に不可能はないんやぁ!!!!」
「根拠になってないからぁぁぁぁ!!!!」
『日向』と呼ばれた少女の声を、『駆』と呼ばれた、大阪弁交じりの少年の声が笑い飛ばす。
スクーターのエンジン音と砂煙の音にも負けないくらい大きな声が、広大な砂漠に響き渡る。
実はスクーターの後ろから、砂に混じって、『あいつ』が忍び寄って来ていることに、二人は気づいていない。
砂上の口げんかは、まだまだ終わりそうにない。
作品名:〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉 作家名:千華