〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉
七の夢~空の上でのコト~
〈彼女〉はとてつもなく大きく、美しいほどに白い翼を
大きく広げてはためかせて、 周囲の雲を蹴散らしながら、大空を進んでいく。
けれどその速度はかなり遅い。
しかし〈彼女〉は気にしていなかった。
他に迷惑をかけさえしなければ、どうということはないのだから。
むしろ早く飛べてなんになる。こんな大きな体で。
時々すれ違う、鉄の塊達を見るたびに、〈彼女〉はそう思っている。
さて、そんな〈彼女〉の大きな、いや、大きすぎる背中には、一つの影がぽつんとある。
その影は仰向けに寝転がり、寝息までたててすーすーと眠っている。
意外と目立つ空色のワンピースに、何故か空色のマント。さらにこれもまた空色の淵の広い帽子。帽子に隠れた髪まで見事な空色。
さらに傍らには、柄の部分まで空色の箒まである。
上から見てみれば、まるで白い鳥の背中に穴が開いているみたいで、人だとわかるには、かなり難しい。
その影はこの世界にいる以上、『人間』と分類されるモノ。
けれどこの『人間』は少なくとも、地上を練り歩いてる『人間』からすれば『人間』ではないのかもしれない。
『友人』という関係を一方的に押し付けられ、許可無しに背中の上に寝られている〈彼女〉は、そう思っていた。
すると、どこからどう見ても怪しく、胡散臭いことこの上ないこの『人間』(仮)を、文字通りその通り、上から見下ろしてる者がいた。
白い綿雲に乗っかって。
〈彼女〉は別段、驚かない。見慣れた光景だし、何より『彼の方』とは既知の中だった。
『彼の方』の乗った綿雲が、だんだん近づいてきているのを察したのは勘か、偶然か。
空色の『人間』(仮)は、目を唐突に開けた。
やっぱりその目も、お約束のままに空色だった。
「お~い」
何故だかすごいニコニコと笑いながら近づいてくる、白のコットンシャツに黒のジーパンの人物を空色の瞳が捉える。
服装だけみれば、この人物は、少なくとも『人間』(仮)より『人間らしい』だろう。
その体の周りに、いくつもの光の羽衣を纏わせてさえいなければ、だが。
不機嫌そうにはぁ、とため息をついた。
「何しにきたのさ・・・」
「べっつに。ただ暇かなぁと思って来てあげたんだけど」
「来てほしいなんて頼んじゃいないし」
「あ、酷いなぁそれ~」
文句をたれる空色の『人間』(仮)は、体を起こすと、いつの間にか鳥の背中に着地していた人物を見て、一言言った。
「こんにちはカミサマ」
「そんなわざとらしく言わないの」
「はいはい」
なんだか不毛な会話を繰り広げる2人を乗せた〈彼女〉は思う。
こんな平和な光景も、地上に暮らすモノには、奇異に映るんだな、と。
笑っていることに、不思議も異端も、関係ないのにね、と。
2人の会話が終わりそうに無いことを思う〈彼女〉のため息も、しばらく続くこととなる・・・
作品名:〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉 作家名:千華