〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉
六の夢~助かりたい人のコト~
筋骨隆々のたくましい体・・・ではなく、かなりひ弱な細く、小さい体。
険しくぎらつくいかつい顔・・・ではなく、弱弱しく怯えている表情。
荒波をなんとか突き進もうと・・・でもなく、ただ、がむしゃらにオールをこぎ続けるだけ。
身なりはボロボロ。
泣きながら、怯えながら。
少年は、荒海をひたすらに進んでいた。
そして、雨に打たれ、波に翻弄されながらも、
一つの言葉をつぶやいていた。
「悪くない・・・悪くないんだ俺は・・・」
口に海水が入っても、なんど波に体をぶつけられても少年は、
どこをみるともなく、そして取り憑かれたように言い続けた。
「俺は・・・悪く・・・ない・・・」
少年の目に映る海は、これ以上ないくらいの毒々しい『紅』だった。
血潮を浴びるその顔は、たとえようも無く歪んでいた。
それが紛れも無く『笑み』だということに、気づくこともなく。
少年の呟きと紅い海の嵐は、終わることはないだろう。
作品名:〈ユメ〉夢詩〈ウタ〉 作家名:千華