私のやんごとなき王子様 風名編
9日目
昨日、亜里沙様の告白を聞いてから、私はずっと風名君の事を考えていた。
どうして風名君を好きになってしまったのか、彼のどこが好きなのか。彼は日本中のファンに必要とされている人なのに。
それよりも、亜里沙様と風名君は誰が見てもお似合いで、私が二人の間に入る隙間なんて少しもないという絶望感が凄まじかった。
練習に身が入らない位に……
「駄目駄目駄目!!」
練習室に演出担当者の声が甲高く響く。
「小日向さん、そんなんじゃ全然駄目だ! いいか? この場面はジークフリード王子がオデットにそっくりなオディールを見て心を奪われるという大事な所だ。君は王子を騙して手に口づけをもらうんだ! 騙しているんだぞ!? それをそんな申し訳なさそうな顔をしていたらおかしいだろう?!」
「ごめんなさい……」
オディールの代役となった事は、すなわち風名君と絡む事が多くなってしまう。しっかりやらなければ皆に迷惑がかかる。自分の想いを気付かれてはいけないって思えば思う程、亜里沙様のあの真剣な告白が鮮明に思い出されて台詞が詰まるのだ。
「いいか? 王子を騙した後のオディールは勝ち誇ったように笑うんだ!」
「はい」
「じゃあもう一度、王子がオディールを見つける所から!」
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作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文