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私のやんごとなき王子様 風名編

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 廊下には人も少なくて、皆それぞれ部屋に戻ってたり遅くまで作業していたりするんだろう。私は足早に階段を昇る。

 あれ?

 ふと人の話し声が聞こえて来て私は足を止めた。
 辺りを見回してみると、丁度演劇用の練習室のドアが少し開いているのを見つけた。
 まだ誰か残ってるのかな。もしそうなら一緒に練習しよっかな……
 と軽い気持ちで薄く開いたドアに手を掛けた時だった。

「私、玲君の事が好きなんです……」

 ――え?
 私は思わず息を飲んだ。とても憂いを含んだその声は間違いなく亜里沙様のもので、一瞬ドラマの台詞と聞き間違いそうな程感情がこもっていた。

「桜……」

 細いドアの隙間から見えたのはすごく困った顔をした風名君と、その前でじっと風名君を見つめている亜里沙様。
 その緊張がこちらにまで伝って来るようで、私は指一本動かすことも出来なかった。

「玲君は私にいつも勇気と元気をくださいます。どんなに落ち込んでも、あなたの声を聞いて笑顔を見ると頑張れるんです。私にとって、あなたはとても大切な、太陽のような存在なのです」

 亜里沙様の言葉に私はドキリとした。
 同じだ。亜里沙様も私と同じ気持ちなんだ……。
 風名君の声と笑顔は本当に元気をくれる。私がこうして何とか頑張れているのも、風名君やさなぎが励ましてくれるから。

 あの完璧な亜里沙様でも落ち込むことがあるんだと思うと、何故だか泣きたくなった。
 私なんかの悩みなんて、亜里沙様の悩みに比べたらほんの些細なものだろう。それなのに一人空回りして、皆に迷惑かけて――