私のやんごとなき王子様 風名編
「風名君は人気があるから、演劇の出演者を選んだ女の子の中には彼目当ての子もいるんじゃない? もしかしてキミもその一人?」
―――え?
一人の男性記者の質問に、私は戸惑った。だって、正直それに近い動機だったから。
「ちょっと、ちゃんと受け答え出来る人はいないの?」
「黙ってちゃ分からないでしょう? こっちも仕事で来てるんだからさあ」
どうしよう、私、私……
きちんと答えられない私に、周りは呆れ始めて酷く悪い空気が漂い始めてしまった。
その空気のおかげで増々言葉が出なくなった私の肩を、そっと優しい手が包んだ。
「すみません、俺達を中傷するような質問をされるんだったら、取材お断りさせてもらいます」
驚いて顔を上げると、そこには相変わらず笑顔の風名君がいた。
「あ……風名、君」
「小日向さん、あなたは次の場面の準備をしておいてくださいます? こういった事には、私の方が慣れてますから」
「亜里沙様……」
その後ろから亜里沙様も現れて、一気に取材陣が沸き立った。
やっぱりすごい。この二人のオーラは、こんな大勢の大人に囲まれても全く霞んだりしないもん。
「大丈夫。後は俺達に任せて、小日向は向こうに避難してなよ」
ボソリと風名君が私に耳打ちをした。
「ありがと……」
泣きそうになった。
たくさんの大人に囲まれて怖かったからじゃない。風名君みたいなすごいアイドルと一緒に演劇祭に出たい、なんて思ってしまった自分の愚かさに悔しくなったから。
昨日、船の上で風名君は一緒に演技を楽しもうと言ってくれた。
私は自惚れていたんだ。
風名君が優しい言葉を掛けてくれるから、風名玲というアイドルの存在をただのクラスメートとして置き換えてしまって、自分に近い存在だなんて思ってた。
泣きたいけど涙なんて流せない。ぐっと堪えて俯いていると、潤君が近づいてきて声を掛けてくれた。
「先輩大丈夫ですか? 取材の人達って怖いですね……風名先輩や桜先輩が上手にあしらってくれてるから、もう心配いらないですよ」
潤君って本当に優しいな。私が落ち込んでるのはその所為じゃないのに、慰めてくれてる。
「うん、そうだね」
それだけ言うのがやっとだった。
作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文