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私のやんごとなき王子様 風名編

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「はあ〜〜」
「華月のヤツ、器用だろ?」

 私がその動作に感心していると、風名君がクスリと笑った。

「うん、すごい。さすが衣装担当を選ぶだけのことはあるよ。プロの手さばきだもん!」
「小日向さん褒め過ぎ。俺の家は自分の着物を自分で手入れしないといけないんだ。だから小さい頃からお針子仕事を覚えさせられるんだ……それに結構好きだし、こういうの」
「へえ〜。やっぱり利根君ってすごい。私なんて自分の気に入るバックが欲しいからっていうすごい単純な動機で裁縫始めたもん」
「単純な動機でいいんじゃない? やっぱり好きこそものの上手なれで、一番は自分が好きかどうかだしね……しかし玲、一体どこに引っ掛けたんだい? 生地が破れてなかったから良かったけど」
「気付かなかったな。何か尖ってるもの触ったっけ?」

 二人のやり取りを見ていると、なんだか微笑ましくなってきた。

「ふふっ、なんか利根君って風名君のお母さんみたい」
「え?」
「ぷっ!」

 私の変な一言で利根君は驚き、風名君は吹き出した。

「嫌だな、お母さんだなんて。せめてお兄さんじゃ駄目かな? 俺男だし」

 そう言って笑う利根君はもうボタンを付け終えて、風名君にシャツを返した。

「ごっ、ごめん! でもなんかお母さんって雰囲気なんだもん」
「ははっ。サンキュ、母さん」
「はいはい、世話の焼ける息子さん」
「あはは! 風名君息子さんだって」

 利根君って冗談言うんだな。なんだか今日はすごく得した気分!
 こうやって笑っていると、さっきまですごく悩んでいたのがちょっとスッキリした気がする。
 と、風名君がシャツのボタンを止め終えると尋ねてきた。

「……小日向はさ、演劇、好き?」

 好き。という一言に酷く驚いた。
 だって、風名君の事を好きか? って聞かれたみたいだったから。―――なんてそんな訳ないのに、何考えてるのよ私。

「う、うん、好きだよ」
「だったらさ、出来ないとか出来るとか、上手とか下手とか関係無く、俺達と一緒に演技を楽しもうよ」
「風名君……」

 すごく優しい声で言われて、私はしばらくぼうっと風名君を見つめていた。