私のやんごとなき王子様 風名編
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「やっと終わった……」
風名君や亜里沙様たちとの話が終わり、やっと落ち着いて自動販売機でジュースを買うと私はほっと一息吐いた。
何だかもう通し稽古みたいに途中からなっちゃって、プロのすごさを目の当たりにしたって感じ。
台本持って立った瞬間スイッチが入って、風名玲や桜亜里沙ではなく、ジークフリート王子とオデット姫になるんだもん。
私はそんな本物の俳優のすごさを見せられて、圧倒させられるばかりで全く何も出来なかった。
悔しいけどこれが現実。一般人とプロの差なのだ。
「はあ……」
一息がため息に変わってしまった。
「小日向さん」
「―――あ、利根君」
甲板のベンチに座っていた私に、利根華月君が声を掛けて来た。
「何だか疲れた顔してるけど、どうしたの?」
隣りに腰掛けながら尋ねられ、私は先ほどの出来事を話して聞かせた。
作品名:私のやんごとなき王子様 風名編 作家名:有馬音文