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現実二重世界

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3.現実多重世界、すなわち緩やかに侵食されていく世界



「ただいまー。奈子ちゃん、今日の授業どうだった?」
 
 藍は夜遅くに帰宅するなり、私にその質問をした。

 藍はシングルの義務と適性判断により政治経済や全般を学んでいるが、ダブルの授業内容に興味を持つことが多い。特に私が学んでいる遺伝子や精神と脳の構造、人格分離についてよく知りたがる。『人格分離と遺伝子の関係』という今回のテーマはまさにそのものだったから、それを知ってから楽しみにしていた。

 私は、可愛い弟のお願いに応じて、事細かに授業内容を解説し始めた。資料は持っているし、そもそもが自分の専門分野だからいくらでも語れるのだ。研究者として、人に説明するのは楽しい。藍は熱心に聞いてくれるから、なおさらだ。たとえば栄華とは分野が全然違うから、お互いに自分の学問を語られても理解できないことばかりだ。余計な勉強が出来るなんて、シングルには余裕があるのだろうか。

 数年後、中央機関の高級官僚になった藍が、研究者として生きる私に、里奈を殺す薬を作るよう命じるだなんて、私は想像もしていなかった。
作品名:現実二重世界 作家名:秋月