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Christmas Carol Nightmare

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第六夜


 溜息を零して時計を見ると、既に零時を過ぎています。
 六番目の使者は訪れないのでしょうか。
 日野は不審に思いましたが、背後に気配を感じて振り向きました。
 その瞬間、部室は闇に閉ざされ、雪明かりさえ見えなくなりました。
 ただ、いつのまに現れたのか、人間と同じ大きさの木偶人形が、見えない壁に背をもたれるようにして四肢を投げだし、虚ろな目でジッとこちらを見ているのでした。
 
 日野は、ゴクリと唾を飲み込みます。
 
「お、お前が六番目の幽霊、……なのか?」
 
 人形は返事をするかわりに、腕を軽く上げて前方を示しました。
 
 闇が砂のように崩れて、夜の繁華街が日野を取り巻きます。
 色とりどりのネオンに満たされて昼間のように明るく、道行く人はほとんどが男性です。
 時折、きつい香水の匂いを振り撒いて、高いヒールの靴を鳴らしながら腰を振り歩く綺麗な女性が脇を通り過ぎて行くのですが、彼女達の笑い声はどう聞いても女性のものではありませんでした。
 
「こ、此処は一体……」
 
 街並みはよそよそしく、見たことも訪れたこともない場所です。
 日野が物問いたげな視線を向けると、人形は黙ってある店先を指差しました。
 
 ──そこはどうやら、お酒を出す飲食店のようでした。控えめながら洒落た感じのする外観です。
 この店が何だというのでしょう。日野が首を傾げていると、通りの向こうから見覚えのある顔がやってきました。
 
「あれは、坂上!?」
 
 可愛い後輩が、華奢な肩に重そうなクーラーボックスを提げて歩いています。釣りの帰りなのでしょうか。
 坂上はそのまま、あの店の中に入っていきます。
 日野は好奇心を抑えきれずに、慌てて後を追いました。
 
 カランコロンと軽快にドアベルが鳴って、カウンター席の客が一斉に振り向きます。その中には、なんとあの黒木先生の姿もありました。
 黒木先生は満月になると食人鬼と化して、夜遅く居残っている生徒を食べてしまうのだという噂です。
 ──厭な予感がしました。
 
「やあ、修一君」
「今夜はお手伝い?」
「ええ、食材を持ってきたんです。兄さんは?」
「店長~!修一君が来たよ」
「お、来たのか!待ってたんだ!早く食材をくれよ、新鮮なうちに捌かないとな」
「そうだね、鮮度が落ちるとおいしくないし」
 
 坂上は請われるままクーラーボックスを厨房に運びます。
 
「男?女?」
「今日のは男。まだ若いよ。今夜のお客さんにはぴったりじゃないかな」
「そうか。若い男は筋が旨いんだよなあ。でも、仕留めるのは大変じゃなかったか?」
「いや、餌を垂らしたら、即食いついて来たよ」
 
 坂上達の会話は、意味不明です。
 男?女?魚のオスメスのことでしょうか?
 
「ほら、おいしそうでしょ?」
 
 坂上は得意げな顔で蓋を開け、中身の一部を取り出して見せます。
 
「ひっ……」
 
 日野は腰を抜かしました。
 坂上が持ち上げたのは、切断された人間の腕だったのです。
 
「へえ、内蔵が綺麗だな。これなら活けづくりにできそうだよ」
「聞いたか?今日は刺身だってよ」
「待ってました!」
 
 店長の言葉を聞きつけて、お客は俄然盛り上がります。
 日野は吐き気を覚えて顔を背けました。
 
 ──坂上が、こんな世界の住人だったなんて。
 
 数多の人間を殺してきた日野でも、それは理解に苦しむ光景でした。
 
「ぎ、犠牲になったのは、誰だ?斉藤か?綾小路か?」
 
 ただそれだけが気になって尋ねると、人形はやはり沈黙したまま、クーラーボックスを指差します。
 
 知りたい。でも怖い。
 
 日野は震えながら、坂上の背後に立ちました。
 そこには……。
 
「刺身なら、おいしく食べてもらえますよ。
良かったですね、……日野先輩」
 
 坂上はにっこり微笑んで、日野の生首を愛おしそうに撫でました。
 
 
 

 ──絹を裂くような悲鳴を上げて、日野は後ろに倒れます。
 
「あら、日野君?どうしたの?」
 
 気付けば美しい女性が、心配そうに日野の顔を覗き込んでいました。
 
「えっ? 桃瀬……先生?」
「大丈夫? 受験勉強で疲れているのね。頑張るのは感心だけど、あまり根詰めすぎてはダメよ」
 
 周りの生徒たちから失笑が漏れます。日野は顔を赤くしながらも起き上がり、倒れた椅子を直して座りました。
 ここは美術室、二学期最後の授業です。
 美術教師の桃瀬毬絵先生から、「今日は実物を見ずにイメージだけで皆さんの大切な人を描いてください」と言われたところでした。
 
 では、今までのことはすべて夢だったのでしょうか──どちらでも構いません。日野の胸中は、喜びに満ちていました。
 今日は12月24日。まだ間に合います。坂上との約束を果たすことができます。綾小路ではなく自分が、やさしく看病してやることができるのです。
 
 なんと素晴らしいことなのでしょう!
 
 日野は意気揚々として、真っ白なキャンバスに鉛筆を走らせました。
作品名:Christmas Carol Nightmare 作家名:_ 消