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Christmas Carol Nightmare

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第零夜


 12月24日、クリスマスイブ。
 世の中は、やれデートだ、パーティーだ、ご馳走だ、プレゼントだ、と浮足立っています。
 ここ、鳴神学園新聞部の部室に集まった部員達も例外ではありません。
 今日はいつもの部活動をお休みして、ささやかなパーティーを開いています。
 少ない部費に加えて今日の為に部員達から徴収したカンパにより、なんとかそれなりのご馳走や飾り付けを用意し、パーティーは中々に盛り上がっています。
 けれども、表向きはみんなと同じようにニコニコ笑っている日野貞夫の胸中は、窓の外にちらつく雪よりも冷たく凍てついているのでした。
 
 日野は、日本人が外国の宗教行事を正確には理解しないままにもてはやし騒いでいる姿を滑稽だと思っていましたし、テーブルの上に並ぶチキンやケーキを食べるよりも、早く家に帰ってあたたかいおしるこドリンクを飲みたいと思っていました。
 でも、そんなことはおくびにも出さずに、みんなと同じようにクリスマスを有り難がっている振りをしていました。
 
「朝比奈部長がここにいればなぁ」
 後輩の誰かがしみじみと呟きます。
 
 朝比奈は今年の六月に忽然と姿を消し、未だ消息がわかっていません。そのことが、部員達の心に暗い影を落としているのです。
 でも、日野は平気でした。何故なら、朝比奈がいなくなったのは、日野が彼を失踪に見せ掛けて殺したからなのです。日野は朝比奈に別の殺しの現場を目撃されてしまい、やむなく彼も日本刀で切り殺したのでした。
 
 日野は、自分以外の人間を何とも思っていません。路傍に転がる石ころのようにとるにたりないものなのです。
 だから殺すことに躊躇いはありませんし、良心もまったく痛みません。
 
 しかし日野は、人当たりのよい優等生を演じていました。その内心は誰にも見破られることなく、今日まで生きてきました。そして、それはこれからも変わらない筈でした。
 
「そういえば坂上は風邪を引いたんだってな」
「せっかくパーティーなのに、運が悪い子よね」
 また誰かが囁き合います。
 後輩の坂上修一。彼は日野の本性を知らずに、表の顔だけを素直に慕っていました。日野は外面は彼を可愛がっていましたが、本当は少し苦手でした。
 日野の命令に健気に従い奔走する坂上も、日野にパシられたあげくに風邪を引いてしまったのです。
 優しい先輩としては、このあと余り物を持って坂上の家に見舞いに行くつもりでしたが、それは決して坂上に対する気遣いではないのでした。
 
 宴もたけなわとなり、プレゼント交換も済んで部員達は次々に帰って行きました。しかし日野は部長代理として、鍵当番をかってでました。
 最後のひとりになった日野は、鞄を持って退室しようとして、ドアを塞ぐように立つ朝比奈をみつけました。
 
 死んだ筈の朝比奈が青白い顔で睨むようにこちらを見つめているのですから、たまりません。
 日野はもう少しで悲鳴を上げそうになりましたが、堪えました。
 
 そして目をぎゅっとつむり、これは気の迷いだと念じて、もう一度目を開けました。
 しかし朝比奈は相変わらずそこに立っていました。
 
「な、何だ朝比奈。お前、まさか俺を取り殺しにきたのか?」
 
 震える声で問い掛けると、朝比奈の幽霊は首を横に振りました。
 
「俺はお前に忠告に来たんだ。このまま心を改めずに生きていくのなら、お前は近いうちにその報いを受けるだろう」
「何だって?」
「既に殺人を犯したお前は、死後の償いを免れることは出来ない。お前は俺とは違う場所へ行き、そこで己の罪深さを悔いることになる。だが、そんなお前でも、現世で幸せになるチャンスは与えられている。これからお前の元に訪れる六人の忠告に従えば、このままいけば迎える筈の不幸な未来を変えられるだろう」
 
 朝比奈の幽霊の言葉は重々しく厳かに語られましたが、日野にとっては意味不明でした。
 
「何が言いたいんだ?」
 
 鼻で笑う日野に、朝比奈は悲しげに首を振りました。
 
「これ以上は、俺が言うべきことじゃない。経験してみれば自ずと理解できるだろう」
 
 朝比奈はそう言うと溶けるように消えてしまい、代わって現れたのは、黒い法衣を纏った不気味な影でした。
作品名:Christmas Carol Nightmare 作家名:_ 消