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鉄のラインバレルログまとめ(森次受中心)

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ほむら(森次と早瀬)



 彼が振る話題は突拍子もなく、いつものことと言えばそれまでだった。
 だから早瀬は、以前のように大きなリアクションをすることがなくなった。

「鬼火」
「はい?」
「早瀬、お前のラインバレルは鬼を模しているのだったな」

 書類から顔を上げ、森次は言った。
 眼鏡の奥の瞳は何を考えているのか全く読めず、彼の思考を読み取ろうとすることがいかに無駄であるかがよく分かる。
 早瀬は溜息一つ零さず、森次の問いに答えた。彼の問いの真意をここで問い質したところで、彼は決して答えを口にしない。そこに辿り着くためには、他でもない早瀬が自分で行かねばならぬのだ。

「ええ。俺の意見じゃなくて道明寺の考えですけど。二本角で三つ巴背負ってるなら、その可能性も高いんじゃないか、って」
「なるほど、赤鬼と青鬼か」

 早瀬の答えに満足したように、森次は一言口にした。その言葉はやけに満足げで、早瀬は先程の自分の言葉のどこに彼を満足させる要素があったのかさっぱり分からない。

「あの……森次さん」
「なんだ」
「いや、突然何を言い出すのかと思って」

 早瀬は運んでいた書類をデスクに置くと、改めて目の前の青年を真正面から見た。
 背後にある大きな窓からは空と海が青く、それでも溶け合わずに各々存在している。ぽつぽつと緑が広がり、目を痛めるような極彩色は窓の外には存在しない。
 部屋の中は少し青みがかった白と観賞植物、それと鈍色のデスク。白い書類が太陽光を反射し、それだけが目に痛いと思った。
 その中にあって目の前の青年は飲み込まれることなく存在している。漆黒の髪と瞳、品のある黒いスーツ。早瀬も彼と同じものを着ているが、早瀬は服に着せられているといった方がしっくりくる。この着物に見合う中身がまだ出来上がっていないのだ。
 森次玲二は、何者にも染まらぬ黒がよく似合うと思う。これ以上自分を侵されぬように黒いのか、染まり切ったからこそ黒いのか、それは早瀬にも分からない。
 何者にも染まらないからこそ、ある意味マイペースなのだろうか。森次のテンポは彼独特で、緩急の差が激しい。今でこそそのリズムに慣れ共に仕事が出来るが、最初は戸惑いしかなかった。先程のような問いも、彼にとっては仕事の合間に一瞬だけ思考を逸らす手段だと分かったのはつい最近だ。
 休憩を兼ねた会話。森次は温くなっているであろうコーヒーを一口飲んだ。

「ラインバレルに関する資料を読んでいた。基本構造がヴァーダントと酷似しているというのは大分前から判明していたが、社長がアルバイトとして雇った道明寺誠君……彼が書いたレポートが大分興味深くてな」

 読むか? というように差し出された書類を早瀬は受け取る。印字の中に、蛍光ペンで引いた下線や余白の脚注が点在しており、決して読みやすいと言えるものではない。

「これ道明寺が提出したやつですか?」
「ああ。初めてこういった仕事をやる割には要点を掴んでいて、なかなか将来有望だぞ」

 そう言ってコーヒーをまた一口。
 早瀬は知らぬ内にむっと唇を尖らせていた。森次が人の実力を認め、素直に賞賛するのはそれほど珍しいことではない。ただ、仕事や任務において完璧を誇る森次に認められるということは、そう容易ではない。だからこそ早瀬は、森次が道明寺を認めたのが少しだけ不満だった。
 道明寺が人並み外れているということは、早瀬も十分知っていた。それでも自分が憧れている相手に、彼が易々と認められる。多少の苛立ちも仕方のないことだろう。

「結構ごちゃごちゃしてて読みにくいじゃないですか。手書きで書き足す、ってことは纏め切れてないってことでしょう」
「これを書いている途中で分かったこと、解明されたところが書き足されているだけだ。最新の情報をどんどん詰めた結果だろう」
「……俺だってこれくらい作れますよ」

 ふて腐れたように早瀬が言えば、森次は呆れたように微かに笑った。少しばかり嘲笑も含まれている。

「お前の報告書は優等生過ぎて読んでいてつまらない」
「報告書に面白さ求めないでくださいよ!」

 ドン、と早瀬は勢いに任せて森次のデスクを叩くが、森次はそれすら予想の範囲内とでもいうように笑みを深めただけだった。

「では言い方を変えよう。正義の味方の報告書にしては、あまりにも凡俗すぎる」
「〜〜〜〜ッ!!」

 早瀬は絶句した。これでは石神の物言いではないか。
 石神と森次の付き合いは大分長いと聞くが、森次がこんな形で毒されているとは。何者にも染まらないと思っていたが、そうではないのだろうか。
 早瀬は握り締めた拳をゆっくり解いた。全身の力も緩む。ふと、ある一つの考えが思い浮かんだ。
 もしかすると、これが本来の森次なのではないだろうか。桐山英治が歪まず、姉も殺されず、自分もまたヴァーダントに殺され生まれ変わらなかった場合の、森次玲二。年相応には笑って見せ、軽口も叩き、それなりに意地も悪い。そう思った方が、早瀬としても精神衛生上健全でいられた。

「今に見てろ、次の報告書でアンタの腹筋崩壊させてやる……!」
「何か言ったか?」
「いーえ、別に!!」

 道明寺の報告書を乱暴にデスクに叩き付ける。ばん! と予想より大きな音が出て、叩き付けた本人である早瀬が一番驚いた。

「読んだのか?」
「何をです」
「報告書。ラインバレルとヴァーダントの類似点。構造的な面でいえば先程も言ったように、ラインバレルとヴァーダントは類型なのではないか、と言われている。ここにきて、道明寺君の報告書は違う方面からその類似点、二機の関連性をより強固なものにした」

 森次の話を理解するには、道明寺の報告書を読まないことには始まらないらしい。早瀬は一度叩き付けた紙の束を、しぶしぶ手に取る。
 早瀬が紙面を読むスピードに合わせるかのように、森次が口を開いた。

「ラインバレルを二本角の赤鬼、ヴァーダントを一本角の青鬼とすると、その二機は姉妹機のような捉え方が出来る」
「ディスィーブとプリテンダーのような?」
「……そうだな、先程の発言を訂正しようか。姉妹機と呼ぶべきはディスィーブとプリテンダーだ」
「じゃあラインバレルとヴァーダントは……」
「オリジナルとコピー」
「なっ……!!」

 早瀬が真っ先に頭に思い浮かべたのはアルマだった。マキナのコピー、量産型。あれをコピー如き、と罵っていたのは目の前に座る森次だ。
 早瀬の動揺を感じ取ったのか、森次が素早く次の語を紡ぐ。

「勘違いするな、アルマのようなものとは違う。確かにヴァーダントは量産を目的としたものだが……アレがこちらに大量に送られて来ていない時点で、量産型の試作機だろう。それに、量産型といっても一体のマキナとしては十分過ぎる」

 一息。

「これは技術部の見解だが、ヴァーダントはラインバレルの構造やシステムを調べる上で作られたのではないかと言われている。あくまで、検体だろう。だからこの二機は姉妹機というより、母と娘と呼ぶべきか」
「あの、森次さん」

 道明寺の報告書を読みながら森次の話を聞く、というのはなかなかに大変なことだった。実際、森次の話も細かいところまでは覚えていない。
 しかし、引っ掛かるところがあった。