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彼女と一緒に

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 夏は暑い(一部地域を除いては)。それは仕方がないのだ。なぜなら、それが夏だから。
 そして暑い夏の夜といえばビール。

 僕は今日も、彼女と一緒にビールを飲む。
 彼女は、控えめで清楚で理想の女性だ。一切無駄口をきかず、僕と一緒にお酒を飲んでくれる。

 彼女との出逢いは衝撃的だった。
 街中で優雅に立つ彼女は一際目立っていた。
 一目惚れだったのだ。いろんな出逢いをしたけれど、あんな衝撃的な一目惚れは初めてだった。
 目と目が合った瞬間に、身体中に電流が走ったように感じた。

 毎日、同じ場所で顔を合わす。
 あちらも目を合わせて微笑んでくれる。
 これは、もしかするともしかするかもしれない。
 話しかけるか、どうするか。それは悩んだ。
 もし、目が合ったのが偶然だったら? 相手も僕と同じ気持ちとは限らない。


 そんな彼女を家に招くのは大変だった。
 彼女はそこに立つのが仕事だったから、その仕事を辞めてもらうために彼女の上司に頭を下げ、彼女にも了解を得るのも一苦労だった。
 彼女はとても寡黙だったので、言葉を交わすのもはじめは難しかったのだ。

 でも、その苦労あって、彼女を家に招き入れることができたのだ。
 その時のうれしさといったら、言葉では言い表せない。理想の人と一緒にいられるのだ。正に天にも昇る気持ちとはこのことだろう。


 ただ、彼女は本当に寡黙だった。心では通じ合っていると思う。
 毎晩の乾杯にも何も言わずに付き合ってくれるし、いつも表情を崩さない。
 彼女はビールが苦手なのか、一向に彼女の前のビールは減らず、いつも僕が最後にはいただくのが常だ。



 本当はわかっているのだ。マネキンの彼女が口を開くはずがないなんてことは……。それでもいいとわかって一緒にいるのだ。
 僕のこの気持ちは本当なんだ。彼女もいつか僕と一緒にビールに口を付けてくれることを信じて、今日も「乾杯」と彼女の前でグラスを合わすのだ。
作品名:彼女と一緒に 作家名:志木