牽制球
すごく久しぶりに会った、といっても、高校時代と比較してなので、そんなに云うほど久しぶりでもなかった。私はカンパリオレンジをちびちび飲みながら、ふと斜め前の男を見た。変わっているところといえば髪色くらいで、笑い方も、少し変わったグラスの持ち方も、何もかも昔のままだった。
「えーヤギ彼女できたー?」
青柳の隣に座っていた美野里が尋ねる。その明るい声色は自分の話を、幸せなおのろけを聞いてほしいからに他ならない。それがよく分かっている青柳は、できてねえよーと軽く返し、きちんとお約束どおりに、お前はと美野里に尋ねた。
何もかもが、その場の全員が考えるような手順で進んでいき、私はその頭の良いやりとりに気持ちよくなっていた。何より傷ついたり傷つけたりするのが嫌いな私は、そういったスマートなやりとりを好んだ。
美野里はきちんとみんなが突っ込む要素を持ったおのろけ話で場を盛り上げ、それから次々に恋愛話が進んだ。私はさして興味もないゆづはの彼氏のプリクラを見たいとせがみ、それからきちんと格好良いと褒めることも忘れなかった。
「で、亜由美は?」
「いませーん」
「いっつもだよねーヤギも亜由美も!欲しくないだけなんでしょ?」
このやりとりは、いったいいつはじまったのか。そしていつ終わりが来るのだろうか?考えながら、いやーそれはやっぱほしいよーと適当にあしらった。本当は面倒くさいし、何より一番スマートでない人間関係であるそれを私は求めていない。そんなことで傷つきたくないのだ。
「俺さー最近親が心配するもん。結婚できるのかって」
ふと、自分の母親の言葉を思い出して顔を上げると青柳と目があった。なんとなく気まずくなり隣の三島に飲み物を勧める。
気づいてる。ずっとお互いに牽制し続けている。知り合ったころから、付き合うわけでもなし、ただお互いに牽制しあっている。それはいったい何のためなのだろう?私は青柳を好きなのか?人間としては好きだが、それが異性に対する好意とイコールかと云われるとすぐに肯定することはできない。おそらく向こうもそう思っているだろう。お互い人間としては好ましい相手と見ているが、付き合うにはリスクがありすぎるのだ。なぜか?簡単な話だ。私たちは似すぎている。
一卵性双生児のように、私たちは見た目こそ違えど思考が対を成している。それは不意に発する言動や、感情の発露のかたちでなんとなく気づいていた。
最近はついに周囲の人間にまで云われるようになり、なんともいえない気まずさがある。これを笑いにできない分、リアリティがあって嫌なのだ。
私たちが互いに一番厭うものが、自分に、相手に、そして二人の関係性にあることに私たちは戸惑い、結果一歩も踏み出せずにいる。
そうして久方ぶりの再会でも一歩も踏み出すことができず、ぼんやりと境界線を眺めている。