ハイドアンドシーク・シンドローム
確かに、あいつは俺の友達だった。
学校の帰りに一緒にゲーセンに寄ったり、マンガの貸し借りをしたり。
なのに、俺は裏切ったのだ。
あいつ一人を失うことよりも、教室という狭い箱庭の中での、自分の居場所を失うことを恐れたのだ。
「友達なワケねえじゃん」
見開かれた目を、俺の名前を呼んだ声を、覚えている。
どうしてだよ、
俺は返事をしなかった。
あいつは、いつしか、いなくなった。
けれど、あいつを犠牲にして守れた筈だった俺の居場所は、呆気なく崩れた。
「お前も、あいつと同じようにしてやるよ」
泣く権利も、俺には無いと思った。
これは罰なのだ、そう思った。
歯が全て生え変わって以来、忘れていた。
自分の血の味を。
俺は、学校に行かなくなった。
ベッドに潜り続けるか、PCのモニタに齧り付く毎日。
そして俺は、
俺にとって、新たな居場所と、楽園となり得る場所を見つけた。
名前を変えた。姿も変えた。声も変えた。
俺は現実の俺とは違う『俺』として、通い始めた。
この、巨大ネットサーバー上に存在する、仮想現実学園(ヴァーチャル・リアリティ・スクール)に。
作品名:ハイドアンドシーク・シンドローム 作家名:ame