霧の夢
私は布団に寝転んだまま頭痛薬をまさぐった。
ベッドの横の棚には大抵のものが乗っている。
携帯とか、薬とか、腕時計とか財布とかティッシュとか。
四角い形、あった。これだ。
薬を無理矢理唾液で流し込んだら、舌の上をヒリヒリとする様なにぶい苦味がつたった。
私は溜め息をつき寝返りをうつ。
…おかしな夢を見たから。
なんだかどうしようもなく泣きたいのだ。
私は誰もいない朝の町で逃げ纏う少女を、空からぼんやりとみていた。
まるで映画を見ているような感じで。
するといつのまにか少女は私になっていて、私は誰かを逆に追いかけ始めるのだ。
その人は薄ぼんやりとしていて誰だかわからない。でもよく知っている。
だって違う夢にも住んでいた人だから。
現実には存在しない、霧の人。
なのに子供の頃からちっとも変わらない背丈をしている。
ちょうど父さんと同じくらい。
多分、彼が振り向く時が私が目を覚ます時なのだ。
けれど彼はちっとも振り向かない。
いつまでも霧を背負って走っている。
…だから私は彼の夢をみた朝は決まって頭を痛くし、霧のような涙を流すのだ。
それしかすべがないから。