御伽噺と薔薇の華
世の中をほんの少ししか悪く出来ない様な、ほんの少しの存在たる彼と別れを告げました。
特に執着などは有りません。
強いて云うならば、彼から取り上げたシルバーのネックレスを未だ返していない事が、唯一心残りかも知れない。
何故俺を愛さないのかと問う前に、暴れない様にと縛る縄の細さの意味を問わせて下さい。
擦り切れた腕の疵は二週間もすれば完治し消えるでしょうが、其の時の恐怖と云ったら無いのです。
離れるなよと懇願する前に、私を縛り付ける為に買った綿素材の縄の金額を教えて頂きたい。
醜い癇癪で私を汚すからいけない。
後悔は先には立たないものよ。
血が滲んで赤くなった縄に何の価値も無いのだけれど。
其れを大事そうに抱えて泣き崩れる貴方が本当に抱き締めるべきなのは私では無いのですか。
あまりにも滑稽過ぎて、何故か目の前が霞むのです。