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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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カイ談(かゆいおはなし)

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「あー、ボックスの中に手を入れてください」

研究所・主任と思しき人物がガラス越し、スピーカーを通して言った。

俺は恐る恐る、透明な箱の真ん中に開けられた穴に手を入れる。



『一日だけのバイトです。実働1時間で3万円! 簡単な研究のお手伝い。 壇ノ浦製薬(株)』

夏のレジャー資金が不足していた俺にとって、これは理想的なアルバイトに思えた。

だが、その実態は・・・。



「あー、1分間我慢してください」

透明な箱の中には10数匹の蚊が入れられていたのだ。

「1か所でも刺されれば、合格ですよ」

助手が耳元で囁いた。



壇ノ浦製薬は殺虫剤の会社で、これは新しい虫よけスプレーの実験ということだった。

その際、蚊に刺されない体質の人は、実験にならないので、交通費だけで帰されるのだ。

はたして俺は仕事をもらえるのか・・・。なんて心配は無用だった。

「アタタタタ!」
 
俺は一度に4ヶ所を刺され、見事に合格を勝ち得たのだった。

「蚊に好かれる体質なんですね」

助手が笑顔で言った。
 
 
 
「あー、では実験を開始します。被験者はゴーグルとマスクを装着し、スプレーの散布を受けてください」

 海水パンツにゴーグル&マスクという怪しい格好の俺に、助手達が一斉にスプレー散布する。
 
 こんなに大量に散布しなければ効果のないスプレーなんて売れるのかと疑問に思ったが・・・。
 
 とりあえず俺は、耳に薬品が入らないよう、抑えるのが精いっぱいだった。

 スプレーが終わると俺は三畳程のガラスの部屋に入れられた。
 
 大丈夫だと分かっていてもドキドキする。
 
「あー、蚊を放ちます・・・」
 
 主任が事務的に言った。
 
 ダクトから蚊が出てくるわ、出てくるわ。
 
 数百匹の蚊が狭い部屋の中に侵入を開始した。
 
 この時になって、俺は恐ろしい事に気付いた。
 
 先程、スプレーをされる時、思わず耳をふさいでしまったのだ。
 
 そういえば、ここ壇ノ浦製薬って言わなかったっけ・・・。
 
 俺は怪談・耳なし芳一を思い出し、あわてて耳を覆った。
 
 これで、きっと大丈夫・・・な、はずだったが・・・。
 
 「アータタタタタタタ、アチョー、アタタタタタ・・・」
 
 数百匹の蚊が一斉に、耳以外の体中を刺した為、俺は北斗の拳のケンシロウの様な奇声を発して部屋から転がり出た。
 
 「全然効かへんやんけー!」
 
 俺が抗議すると、主任はガラス越し、スピーカーから、
 
 「あー、失敗です」
 
 と、事務的に言った。
 
 
 
       ――― おしまい ―――