振りほどけない 優しくもできない
何が一番ムカつくかって、自分から手を離した癖に、傷ついた顔をするところ。
俺が悪者みたいに振る舞う。
「大人は手を繋がないよ」
精一杯の、嫌みを。
「大人じゃねえし」
カチンときた。傷をえぐってやろうと思った。
「俺はお前のパパじゃないよ」
じっとこちらを見つめる。色々汚いことを知ってるのに、何も知りません、て感じの無垢な瞳を持つのは狡いことじゃないのか?
「でも、手が繋ぎたい」
昨日彼女と別れたのを知ってる。彼女から電話がかかってきたから。
「あの子、凄く子供っぽい。何て云うか・・・、少し変わってるよね」
よかったね。優しい彼女で。気持ち悪いとか異常とか云われなくて。
「彼女はママじゃねえぞ」
きつく手を握り締めて云ってやった。
足元の石を懸命に蹴っていたから、落とされていた視線が俺の顔に戻る。
「じゃあ、手を繋いでくれるお前はなに?」
さあ。俺はなんだろう。少なくともお前じゃないことは確かだ。
作品名:振りほどけない 優しくもできない 作家名:おねずみ