予言者はもういない
セーラー服姿が、忘れられない。彼女は予言者。
僕はさまよえる、
「何で、死ぬのはいつも女なんだと思う?」
強風にセーラー服の襟がはためく。あらわになった額は綺麗なかたちをしていた。
「さあ…てかどういうこと?」
彼女はおよそ悲劇とは程遠い、健康的な肢体をしていた。だから僕は忘れていたのかもしれない。
死はいつだって恐ろしい程に平等なのだ。社会主義国家も驚くほどに。
「なんかさ、セカチューとか一リットルの涙とかあるじゃん?あっち系の話って死ぬのいつも女でしょ?何でだと思う」
欄干を掴む手に力が入ったことに、僕は気付いていたか?
彼女の伏せられた瞳の上、眉間には何かに耐えるような皺が刻まれていたことに気付こうとしたか、理解しようとしたか。
「さあ、悲劇性が増すから?」
「残念!」
突風が吹いた。
思わず目をつむった。
音もなくそっと欄干から離された手を握ればよかったのに。
「女は忘れるからだよ。女は昔の恋人を忘れる。けど、男は忘れない。幻影を追い続けるの。だから文学になるんだよ」
夏服の季節が終わろうとしていた。汗はひいて、蝉は死んだ。
彼女は予言者だった。
僕はとらわれている。
彼女が冬服に袖を通すことはなかった。
その年は暖冬だった。
「なにそれ」
「まあ…予言の一種かな?」
彼女は世界一の予言者だったのだ。