歌声の響く街
淡い色をしていた。
何、彼の瞳の話だ。
こげ茶色より、麦茶の色に似ている。もしかしたら鼈甲のほうがより似ているかもしれない。
彼の瞳はたしかに、そういった淡い色だったのだ。
彼はいつも、年下のかわいらしさで俺の隣にいた。
弟がほしかったのでことさらかわいがった。
しかし俺は人をかわいがるということがどういうことかよくわかっていなかったのかもしれない。
たくさん失敗したかもしれない。
それでも幼い彼は、笑っていたのだ。
終わりがないものなんかこの世にあるのだろうか。
こんなに広く見える空さえ、たどっていけばまたここに戻ってくるのだ。
宇宙だって、もしかしたら果てがあるのかもしれない。
ああ、
ああ。
ひとつだけ果てないものに気づいた。
人の悲しみにはきっと終わりがない。
きっといつか涙はかれるだろう。
しかし悲しみはかれない。
「プラハって、どんなところ?」
たずねた彼は本当に無邪気だったか。
年上の馬鹿さを彼は知っていたのかもしれない。
雨上がりの空を見上げた。
プラハは梅雨がないだろう。
乾いた空の下で彼は唄っているだろうか?
自分の黒々とした瞳を皮膚の下に隠して、楽しかった日々を思い出してみる。
うまく言葉をつむぐことができない自分を、あのときほど呪ったことはない。
いつかプラハに行こう。
そうして二人でくだらない歌を唄おう。
きっと幸せの錯覚に出会える。