散文談義
「あたしが何より憎むのは、」
そこまで云って民子は爪をこちらに向けた。ほとんどグロテスクと云って良い赤々としたネイルが蛍光灯の安い光できらめく。
民子は自信満々といった風に笑う。
「くるんと上がった睫毛と不自然な二重をさも免罪符のように振る舞う女ね」
ふうと吹いてネイルを乾かす。
民子のはなしはとりとめもないものばかりで、あちらこちらに行ったり来たりする。それが彼女が女である何よりの証拠だと私は勝手に思っている。
「どだいマリーアントワネットに憧れるなんてあほうよ。コルセットなんてとてもじゃないけどつけらんないわ。同じマリーなら断然あたしは毛皮のマリーね」
「男になりたいの?」
「まさか!男になりたい女なんて気が狂ってるとしか思えない!それにマリーは元男だけど現女だわ」
「じゃあ何で?」
「マリーは昔男だったのよ。それだけで悲劇的だわ」
「へぇ」
「毛皮のマリーなら、脛毛まで愛せるわ」
民子は口角を上げる。
毛皮のマリーはきっと、綺麗に手入れされた美しい足をしているだろう。そうして太い声帯を揺らして笑うに違いない。
民子はそんな彼女を見て何を思うだろう。