贖罪の街
人はその街を、半分の王都、という意味でカルトゥリダと呼んだ。それは揶揄を含む言葉だった。一年の半分を王が暮らす街。一年の半分しか王の権力が働かない街。
美しい購いの街、カルトゥリダ。
本当の名前はもう誰も覚えていない。
あるとき、西から東に向かう旅人がいた。旅人は宿を求め門をくぐった。
門のすぐわきの、質素な宿。ほんのりと灯りが外に漏れている。
「一晩、宿を」
戸を開け、旅人は請うた。カウンターの奥から太った女が出てきて答えた。
「こんなところでよければ」
温かいスープとパンを供された旅人は尋ねた。
「ところでここはどこでしょう?私は西の果ての街から、東の都、ナリッツエを目指し旅しています」
「ナリッツエはここから二三日でつくよ。ここは贖罪の王が統べるカルトゥリダさ」
「…カルトゥリダ。本当にあったのですね」
女は穏やかに笑った。
「ああ、あるとも。ユイヒ・アタニスの全ての罪はここで購われているのさ。西の果てのお前さんの罪も、勿論」
「それでは、購いの王・シャオも?」
「勿論。去年新しいシャオが即位した。久しぶりの男王さ」
この王国には生け贄のならわしがある。神の求める年に、生け贄をささげる。
生け贄の左右の手には神と、王家の焼き印がなされる。
生け贄は転生する。何故か、この街、カルトゥリダにだけ。焼き印を手にもち生まれた赤子は、この街の王となり、権力を握る。
それがこの王国なりの、生け贄に対する贖罪の方法だ。
時に二人、転生した者がいたりする。学者はそれを、生け贄の頻度と関係していると説く。二人いる場合は、先に生まれた者が即位し、その者が死すれば次の者が即位する。
この街は、贖罪の王だけでなく、生け贄も生み出す。この街が、王国の全ての罪を購っているのだ。