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泣きたいのなら泣いてもいいよ

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 遠いところに住んでいる。今お前の街は雪が降っているだろう?こっちは晴れていて、長袖では少し汗ばむくらいだ。日の光は俺の精神を健全にして、笑顔が増えた。新しい友人も出来て、心許せる存在が数少なかったあの幼い頃の自分とは似ても似つかないと思う。顔も、髪型も、身長も体型も何もかもが変わってしまった。
緑色の公衆電話は硬貨を一枚飲み込んだ。

「もしもし、」


誰とは云わない。声で気付かないのなら、別にかまわない。


ただあの頃を、謝って、今を知らせたいと思っただけなんだ。

「・・・、七瀬?」

「うん」

「久しぶり」

「そうだね。俺ね、友達が出来た」


「そうか。それは良かった」


それ以上伝えることはなかった。


いや、伝えることはあったのだ。あったけれど、一つしゃべると無限に言葉があふれ出すことが分かりきっていたので、それ以上言葉をつむぐことが出来なかった。
しばしの沈黙の後、ようやく一言だけ云えた。

「あのときの言葉、感謝してる」

がちゃんと受話器を置いた。涙が出た。哀しいからじゃない。どれだけこの友情が大切なもので、月日を経たからといって変わるものではないことに気付いたからだ。



大切な人がいる。


それはお前だし、他の誰かだし、もしかしたらこの世にはもういないかもしれない。


けれど、もし。


そのなかの誰かが苦しんでいたら、あのときの自分のように苦しんでいたら。

あのときのお前のようにその人に云おうと思う。


「泣きたいのなら泣いてもいいよ」