うつくしいひと
美しい人間の傲慢さが嫌いだといったあの女は、美しい男を飼っている。買っている、でも駆っている、でもなく、飼っている。
俺は彼女に雇われた身で、そのことに対して口出しする権利はないものの、顔をあわせるたびに彼女が俺をロリコンと揶揄するのは少々納得がいかない。
自分は男を飼っているくせに。
俺と同業者(幼女)は、みすぼらしい服で彼女の家に行き、依頼を受けて、それから仕事に出る。それは週に一回程度の行事で、そのたびに俺らは彼女のペットを見る。
「あの子だれ?」
同業者(幼女)が尋ねるも俺はあいまいに流す。こんな仕事をしていても、こどもには夢を見させてやりたいのだ。人間が、人間を飼うなんて。まあ、殺すのとどっちがましかといわれれば口を噤むしかないが。
飼われている男は俺たちより何倍も立派な衣服を身につけている。少々気に食わない。
皮肉の一つも云いたくなって、俺は彼女に云った。
「美しい人間は嫌いじゃなかったんですか?」
「あの子は自分が美しいって知らないのよ」
へえ。返す言葉もなくそそくさと退散した。それは結構なことで。
「ねえ、あの子誰?」
やっぱり聞くので、俺は答えてやった。
「美しい人間」
「なにそれ?」
「俺らとは違う人種さ」
同業者(幼女)を促し仕事に向かう。次の報酬で、この子にいい衣装の一つでも買ってやろう。馬子にも衣装と云うではないか。
彼女のマンションを見上げると、美しい人間がこちらを見ていた。
俺は彼の声を聞いたことがないのに気が付いた。