小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

朝が遠い

INDEX|1ページ/1ページ|

 




 夜を恐れているときに限って、朝が遠く、そして世界に自分が一人きりだと感じるのはきっと、退屈な授業が終わるのが遅く感じるのと同じだ。遠く明け星が見えるまでの時間を、一体どうやって過ごせというのか。
まとわりつくどうでもいい人間さえも、こういうときにいないのが癪だ。
何故人は眠るのだろう。記憶の整理、体力の回復、その他様々な理由があるだろうが、私はベッドでぐっすり眠る人になれない。テツが買ってくれたふかふかのベッドは天蓋が付いている。ボロ屋敷だが、洋館ではあるのでそのベッドは部屋に良く合っていた。

合わないのは私のほうだ。

テツは何をしているのだろうか。もちろん仕事をしているだろう。今まさに弾を放っただろうか。それとも相手の背後に忍び寄る最中だろうか。はたまた相手のアジトに向かう途中だろうか。

思い描くのはテツのことばかりだ。

私は世界を知らないから、私の世界はテツだけだ。いつもいつもテツのことばかり考えている。
テツはなんであそこを辞めたのか。なんであそこの社長はテツのことを目の敵にしているのか。なんでこないだ会ったあの男たちはテツを連れ戻そうとしているのか。男たちはテツだと分かるとうれしそうに目を細めた。きっと犬なら尻尾が揺れている。それくらいの喜びようだった。

テツのことは知りたいけど何にも知らない。

私は私自身についても何も知らない。

私はどこから来たのだろう。なんで私は人殺しなんだろう。私はだれから生まれたんだろう。テツと私はどういう関係なんだろう。

もしかしたらテツが私の父親かもしれないと思って口にしたら笑って頭をたたかれた。確かによくよく考えると巷に溢れる親子ほど私たちは年が離れていない。もっとも見た目の話しだが。私はだいたい何歳なんだろう。テツも年齢不詳だ。おそらく30前後なんだろう。私はきっと12,3歳だ。親というには少し若いか。しかも似てない。


明け星。

テツのことを考えているとすぐ夜も明ける。

「なーにたそがれちゃってんの?」
ポンと頭に手を置かれて肩を震わす。
「テツ・・・、」

今、テツが私を殺しにきた殺し屋なら確実に頭が吹っ飛んでいる。緊張を解いていた自分を恥じた。

「夜は長いね」
「じき空が白み始めるさ。さ、寝ようぜ。俺たちの時間はしまいだ」
そう、私たちの時間は太陽が強制終了させる。私は天蓋つきのベッドに眠り、テツは熱いシャワーを浴びてそれから床に就くだろう。

「ねぇテツ。あたしが寝るまでお話ししてよ」
くいと腕を引くとテツは驚いた顔をした。
「どうしたまた・・・。ま、いいけど。ホレ、早くベッドに入れ。上から布団かけてやっから」
ふかふかのベッド。ふかふかの布団。上からぽんぽんとテツがリズムよく手を落とす。

「そうだなぁ。何話せばいいんだ?俺ァおとぎ話なんて知らねえぞ」
「何でもいいよ。テツの話をして」
そう。テツがどう生きてきたのか聞きながら眠ろう。テツは何を知って、何を失って、誰を好きになって誰を殺したか。
私はまだ何も知らない。

「そしたらな、」

やさしいテツは話し始めた。私は布団の上に落とされる手のリズムに集中した。


世が明ける。

私たちのものじゃない一日が、またはじまる。



作品名:朝が遠い 作家名:おねずみ