鼻血ボーイに恋をする
その瞬間を、見てしまった。
何気なく隣の席の佐倉くんのほうを見た瞬間、佐倉くんの鼻からつうと赤いものが落ちた。
(あ、血だ)
鼻血が出る瞬間って、そうそう見られるものじゃない。
私は咄嗟にブレザーのポケットに押し込んでいたタオルハンカチを取り出して、佐倉くんに手渡す。
佐倉くんは驚いた表情で私のほうを見た。
どうやら佐倉くん自身が鼻血が出たと認識するより前に、私が気付いてしまったようだった。
きまずそうにちょっとだけ微笑んで、佐倉くんは私の手からタオルハンカチを受け取った。
ちょっと気が動転しているようだった。
垂れた鼻血を抑えながら、「あ、汚れた」と呟いたので、「いいよ」と答えた。たいしたものじゃない。
先生も、他の生徒も気付いていないようだった。
佐倉くんのノートには、ぽたりと鼻血が落ちていた。まるい。あかい。罫線の上に、ぽたりと。
しばらくして佐倉くんが、「ありがとう」と小さな声で云った。私はうなづいた。
云えやしない。鼻血を出すあなたに興奮しましたなんて。
作品名:鼻血ボーイに恋をする 作家名:おねずみ