川に流すお前のいのち
ゆったりと流れる川は水路の街を思い起こさせる。生い茂る草花は生命の再生を予感させる。何かの始まりを思う。何かの終わりを祈る。動かない肉体は重くて、額から汗が吹き出た。UはゆっくりとXを土の上に置く。あと数日もたてばこの肉体はゆっくりと腐り崩れ始めるだろう、Uは思った。Kは死んだ魂の行く末を知らない。己が転生の日々の間に見た悪夢を知らない。Xはまた眼を覚ますものと信じている。
何時も帽子をかぶっていてあまり眼にすることのなかったXの髪。さっと手櫛でといてやるとさらさらと指の隙間から零れ落ちた。一緒に光も零れ落ちる。
「さあ、Xにお別れです」
Uがそう云うとKは頚をかしげた。
「なんでXを置いていくんですか?」
Uは見上げる瞳のうえに手を置き、そっと云った。
「違います。Xが僕たちを置いていくんですよ。しかしじき会えるでしょう」
湧き出る水は生命の根源。太古生命は海で生まれた。ならば海に返すのが道理。
「さようならX。また会いましょう」
作品名:川に流すお前のいのち 作家名:おねずみ