残酷な言葉の応酬
それから三年後。といいたいところだが実際のところ何年経ったのか知らない。小島は名瀬に最後に会った時をおもいだそうとして瞬く間にうんざりした。
「あれからどうしてた?」
残酷な問いかけは捨てて行った人間の特権だ。ベーグルを頬張りながら横目で小島を見る名瀬の頬は、以前と変わらずぴかぴかと紅く光っていた。
「んー、別に。普通に大学生しよったよ」
「そっかー」
やはり彼の問いかけに特に深い意味は無かったのだろう、名瀬は小島の答えにあまり関心が無いようだった。
「名瀬は?」
手についたマヨネーズをぺろりと一舐めして、名瀬は小島を見た。その瞬間小島は、中学三年間、ずっと抱いていた居心地の悪さを思い出した。二つの眼球が、モノ云う瞬間。思わずその目玉を抉り取って握りつぶしたくなる。
「ぶらぶら、って感じ。まあ大学生なんだけどねー」
小島は以前耳にした名瀬の生活を思い出す。何でも売りまがいのことをしているらしい。老若男女構わず気に入った人間の家を転々としている---、まだあの指輪をしている。
コーラを手に取る名瀬の左手をちらりと見ると、中学生の頃から付けている指輪が人差し指にしっかりとあった。忘れもしない、中学二年生の誕生日にあげたものだ。
「それ、」
小島が指差すと、悪戯がばれた子供のように笑い、答えた。
「抜けなくなっちゃってさ」
「そう、」
「うん」
何か云わなくては、思うたびに沈黙が身体を包む。
「返して欲しい?」
小島は答えを持たなかった。ここで返して欲しいといえば、名瀬はどうするのだろう、純粋な好奇心もあったが、そんなちっちゃなことを云いたくないという変なプライドもあった。
「返して欲しいって云ったら?」
「返すよ」
「・・・どうやって?」
小島の目前に広がる名瀬の手。もう日焼けのあとなんか何処にもなくて、まっしろだ。
「この指ごと」
ああ、いまでも。小島は確信した。ああ、いまでも自分はこいつの一挙手一足投に振り回されるし、振り回されたいんだ。窓の外には雪、季節は冬。出会いは春。もう一度出会った。この出会いがもたらすものは、果たして。