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花言葉は復讐+続編-手繰る糸、繋ぐ先

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#3


 もう一度くだんの部屋を覗いた俺達は、そこで肩透かしを食らう羽目になった。
 緑の被り物男はおろか、車椅子さえも忽然と消えていたのだ。
 
「なるほど、何がなんでもまともに応対するつもりが無いわけだな」
「やっぱりからかわれてるんでしょうか」
「そうとしか思えないだろ。だが、こっちがただ振り回されているばかりだと思ったら大間違いだ。坂上、絶対に此処の住人の鼻を明かしてやろうな」
「そうですね!招かれていないとはいえ、訪ねてきた客をからかうなんて悪趣味にもほどがあります」
 
 俺達の怒りは更に強まり、次は何が来るのかという警戒も増す。
 ひとまず一階に戻ろうと階段を下りていくと、入った時には死角になっていた場所に、人間が数人潜れそうな程に馬鹿デカい水槽が置いてあるのが目に入った。
 
「何だ? 人魚でも飼っているのか?」
 
 興味を引かれて近づいてみたものの、手入れされていないのか水槽の水は緑色に濁っていて、中に何がいるのかまったく見えない状態だ。
 
「あれ?」
「どうした坂上」
「いえ……今、水槽の中で裸の男性が泳いでいるように見えたんですけど……」
「……まさか。気のせいだろ」
「ですよね……きっと見間違いです」
 
 もう一度凝視してみたが、俺の目には相変わらず濁った水しか捉らえられなかった。
 坂上が言うとおり、やはりただの錯覚だろう。
 人の想像や恐怖心は、時として何も無いところに何かがあるように見せるものだ。
 
「怖がらなくてもいいんだぞ、坂上。相手がどういうつもりだろうと、俺がついてるからな」
「別に怖がってなんかいないですよ!もしひとりだったら怖かったと思いますけど、先輩が一緒で心強いです」
「そうかそうか」
 
 可愛いことを言ってくれるものだ。思わず坂上の頭をくしゃくしゃに撫でてやる。
 少し湿った感触に、そうだ、風呂にでも入らなければ風邪を引いてしまう──と考えた時だった。
 
「うわっ!?」
「っ……停電だな」
 
 落雷の直後、唐突に訪れた闇。
 あるいは例の如く家主の悪戯だろうか。どちらにせよ、このまま下手に動けば怪我をしかねない。
 
「ひ、日野先輩……」
「落ち着け坂上。復旧するまでじっとしているんだ」
 
 暗がりに怯えているのか、坂上の声は少し震えていた。安心させるように肩の辺りに手を置き言い聞かせると、坂上は安堵の息を漏らしながら縋るようにそっと俺の身体に触れる。服の裾を掴みたかったのだろうが──。
 
「ちょ、ちょっと待て坂上、お前、何処を触ってるんだ……!」
「えっ?あの、これって……」
 
 坂上は手を除けるどころか、形を確かめるように輪郭をなぞる。場所が場所なだけに、熱が集まるのを感じた。
 
「……くっ……やめろ、坂上……っ」
 
 これ以上刺激を与えられたら、本当にまずい。
 
「あっ……!」
 
 耳元で濡れた吐息を漏らしてやったのが効いたのか、坂上はようやく自分の手の中にあるものがナニかに気付いた。熱い物に触れた時のように素早く手を離し、俺の胸にぶつかるほど頭を下げる。
 
「す、すみません!僕、その、見えなくて!まさか日野先輩のっ……」
「……いいから、何も言うな、坂上!」
「は、はいっ!」
「それから、少し離れてくれ」
「あ……は、はい……」
 
 暗くてよく見えないが、坂上は林檎のように顔を赤くして俯いているのだろう。
 だが、恥ずかしいのはこちらの方だ。俺はこの世で最も萎える映像を頭に思い浮かべながら、この恥辱をもたらした元凶への報復を誓った。
 
(緑のアンモナイト男、殺す!)
 
 
 
 それから何分そうしていただろうか。不意に、電話のベルが静寂を切り裂いた。
 耳を澄まして家主が電話に出ることを期待したが、その気配はいっこうになく、ベルは鳴り続ける。
 
「よし、俺が出てやる」
 
 いい加減、ベル音がストレスになってきた。俺はまだ俯いているかもしれない坂上に向けて手を差しのべた。
 
「坂上、手を出せ。電話を探しに行こう」
「え?」
「電話が鳴るということは、こちらからも掛けられる、ってことだ。家族に連絡がつくぞ」
「あ、そうですね」
 
 俺達は手を取り合って、ようやく闇に慣れてきた目を凝らし、音を頼りに歩き出した。
 
「ここだな」
 
 部屋を特定し、ドアを開けた瞬間、失われていた光が戻る。
 
「うっ!」
「眩しい……っ」
 
 眩しさに思わず目を閉じ、明るさに目が慣れるのを待ってから足を踏み入れると、そこはどうもキッチンのようだった。
 簡易ダイニングのようになっており、小さな食卓と暖炉にはどことなく生活感がある。
 しかし、どんなに見回しても電話は無い。ただ音だけがしつこく鳴り響いている。
 
「あの、先輩」
「うん?」
 
 坂上は言いにくそうに冷蔵庫を指し示した。
 
「音、あの中からしませんか?」
「……」
 
 馬鹿な。どこの家が冷蔵庫の中に電話を設置するというのだろう。
 だが、確かにベル音はそこから漏れ出している。
 
 意を決して冷蔵庫を開けると、そこにはヒエヒエに冷えた黒電話が鎮座していた。
 
「……ふざけるのも大概にしてくれ」
 
 見なかったことにして扉を閉めてしまいたいのは山々だったが、坂上の少し期待のこもった眼差しに促されるようにして、俺は恐々と受話器を取った。
 
『お取りになった電話は、現在使われておりません』
 
 怒りのあまり、俺は受話器を叩きつけた。
 
「日野先輩、これ……」
 
 坂上にもふざけたアナウンスが聞こえていたのだろう。顔をひきつらせて俺に差し出したのは、ぶっつりと断ち切られた電話線だった。
 
 
 俺は憤然と立ち上がり、戸棚から包丁を見つけ出す。
 
「ひ、日野先輩!?落ち着いてください!」
「止めてくれるな坂上!どうしてもこの黒電話を切り刻んでやらないと気が済まないんだ!」
 
 ──残念ながら、電話は包丁では切れなかった。
 
 
 

「くしゅんっ!」
 
 興奮した気持ちを落ち着かせ、一先ず椅子に腰を下ろすと、坂上が小さくくしゃみをした。
 そうだった。俺達は雨で濡れた身体をそのままにしていたのだ。
 
「よし、風呂を探しに行くぞ、坂上」
「はい!」
 
 俺が怒りをおさめたことにホッとしたのか、坂上はふんわり微笑んだ。