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花言葉は復讐+続編-手繰る糸、繋ぐ先

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続編:#3


 それほど親しくもない相手からいきなり「悪魔のことなら僕に任せろ」などと言われても、にわかには信じ難い。
 疑いの目を向ける日野に、綾小路はむっとした表情で彼の事情を説明した。いわく、綾小路は人並み外れた嗅覚の持ち主であること。大学で知り合った大川大介につきまとわれ、彼が放つ殺人的な悪臭に悩まされていること。大川のストーカー行為によって精神的に追い詰められ、大川の殺害を計画したこと。完全犯罪を目論むもことごとく失敗し、逆に大川に殺人未遂の証拠を掴まれ脅されたこと。弱り切った末に頼った手段が悪魔召喚であったこと。召喚した悪魔に大川の抹殺を依頼するも、その悪魔こそ大川であり、死後も大川に魂を弄ばれる契約を結んでしまったこと。大川から解放されるために、今もありとあらゆる方法を試して戦っていること……。
 
 日野は長話に唖然とし、その信憑性にはやや懐疑的だったものの、坂上は綾小路の話を信じ切っており、しきりに「相談しましょう!」と主張するので、結局日野が折れる形になった。
 
 人目がある場所では話し難いと坂上のアパートに移動し、こちらの事情をかいつまんで説明すると、綾小路はしばらく思案してから、坂上に向けて話し出した。
 
「話を聞いていると、坂上君と倉田さんの魂を坂上君の肉体に共存させる代償として、契約者である先生が即刻の死をもって悪魔に魂を捧げたんだろうな。となれば、双方の債務は既に履行完了していることになる。完遂された契約はいまさら取り消せない」
「そんな……」
「じゃあ、坂上は一生このままなのか?」
 
 綾小路は頭を振った。
 
「早合点しないでくれ。せめて契約した悪魔の名前がわかれば、交渉の余地はある」
「悪魔の名前?……坂上、覚えてるか?」
「……ええと、実は他の実験でもたびたびその悪魔を呼び出していたので、僕は彼を【ポチ】って呼んで、ペットみたいに思ってたんです。だから、正式な名前はちょっと……」
「……」
「……」
「す、すみません!」
「いや、いいんだ。しかし、ポチではわからないな。坂上君はその悪魔の姿形は覚えているか?」
「あ、はい!それならはっきり覚えてます!見たらすぐにポチだってわかりますよ!」
 
 悪魔を犬のように呼ばれて、内心複雑なのだろう。綾小路は微妙に顔を引きつらせつつ、鞄から一冊の本を取り出す。
 悪魔の書。悪魔召喚の正式な手順に必要不可欠なアイテムだ。
 
「とにかくかたっぱしから呼び出してみよう」
「……下手な鉄砲も数を撃てば当たる、か。随分と原始的だな」
「仕方ないだろう、手掛かりがないんだから」
 
 日野の皮肉に口をヘの字にして言い返し、坂上に目を向ける。
 
「一応聞いておく。ポチの特徴は?」
「とにかくかっこいいです!赤黒い濡れたような肌に、鋭い目付き……コウモリのような羽根と、長い角……!」
 
 坂上はうっとりと熱っぽい口調で悪魔の姿を具体的に描写していく。
 綾小路は理解できない、という顔を見せつつも魔法円を用意し、心当たりがあったのか迷わずに呪文を唱えはじめた。
 
「万物の覇者、キング・ソロモンの名において、この祈りを捧げよう。悪魔ベリアルよ、今ここに汝を呼び出す。ゲシュタル、イシュタル、バルダック、そしてセデスの王子たちよ──」
 
 やがて、魔法円から灰色の煙が立ち上り、悪魔が姿を現した。
 そのグロテスクな風体に、日野は息を呑む。やはり話に聞くのと実際に目の当たりにするのとではわけが違っていた。
 
「またお前か、人間」
「そう邪険にするなベリアル、いや、サブちゃん」
「サブちゃん!?」
「驚くのも無理はないが、ベリアルの日本での名前は山本三郎というんだ。だから、サブちゃんだ」
「めちゃくちゃだな……」
 
 日野の悪魔のイメージが、ガラガラと崩れていく。
 
「失礼な。親しみやすい名前ではないか。それで、今回は何の用だ。何度も言っているが、我はお前とは契約出来ない」
「ああ、わかっている。今日は別件だ」
「なに……?」
 
 訝しげに首を傾げるサブちゃんに、綾小路は感極まった様子の坂上を示した。
 
「ひ、久し振り、ポチ!!」
「お前は……修一!?」
 
 感動の再会……といいたいところだが、サブちゃんの反応は引き気味だった。