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花言葉は復讐+続編-手繰る糸、繋ぐ先

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続編:#2


「というわけだ、いつまでもこのままというのはよくないだろ」
 
 翌日、日野と坂上はメールで連絡を取り、食堂で落ち合った。まだ講義が行われている時間帯であるせいか人の姿は疎らで、席に着いている学生も食事をしている者は稀だ。
 日野はあたたかいおしるこドリンク、坂上は普通のお茶でそれぞれ喉を潤しながら、【恵美】の問題について話し合う。どうせ何もできまいとたかをくくっているのか、こういう時は【恵美】も現れない。
 坂上いわく、【恵美】はほとんどの時間【眠って】いるのだという。
 
「でも、この身体から恵美ちゃんを追い出したら、恵美ちゃんは行く所がありません。彼女自身の身体は、その……処分されてしまったので」
「つまり倉田は実質的には既に死んでるってことだよな。追い出したら、普通に成仏するんじゃないか?」
「恵美ちゃんには夢があるんですよ。それを叶えるまではきっとこの世に留まります」
「……ちなみに、その夢ってのは?」
「世界征服です」
「……」
 
 お前はヒーロー物に登場する悪の組織か。
 あまりにもぶっとんだ発想に、日野は敢えて直接のコメントは避け、深い溜息を漏らした。
 
「とにかく、何か方法がある筈だ。例えばお前の身体に倉田の魂が入ったのは、悪魔との契約によるものだよな」
「契約者は先生なので、僕はよくわからないんですけど……」
「調べてみるしかないな」
 
 おしるこドリンクの空き缶を掴み立ち上がる。不思議そうに首を傾げる坂上に、窓の外に見える建物を示した。
 
「うちの社会学部に、西洋民俗学のコースがあるだろ。あそこならそういう資料がある筈だ」
 
 文系キャンパスの中央に構える大学附属図書館には、授業に必要なものから必須ではないものまで、ありとあらゆる専門書が揃っている。
 ふたりは学生証を提示して入館を果たすと、早速【西洋民俗学】の棚を探した。
 
「へえ、色々あるもんだな。【色彩から読むヨーロッパ思想】【ギリシャ神話とキリスト教─民間信仰─】……」
 
 普段触れていない分野だけに新鮮で、つい目移りしてしまう。
 
「日野先輩、そういうのは後にしてください。それより悪魔とか魔術とか……」
「うーん、錬金術ってのは関係ないか?」
「さぁ……」
 
 こうしてみると中々目的のものは見つからない。
 あの洋館にあった数々の書物が焼失してしまったことが、いまさらながら悔やまれた。
 
 ふと落とした目線の先に、【ソロモン七十二柱の魔神達】というタイトルを見つける。
 
「おっ」
「あっ、これ……」
 
 ふたり同時に伸ばした手が触れ合い、思わず引っ込める。
 
「……魔神、ですって?アンタ達、契約を解除させて私を追い出すつもりね!そうはさせないわよ」
「倉田っ……」
 
 その接触が引き金となったのか、気付けば【恵美】が本を取り上げてペラペラとめくっていた。
 
「い、今のはどういうことだ?」
 
 唐突に背後から第三者の声がかかり、日野も【恵美】も硬直する。
 錆び付いたロボットのような動きで振り返ると、見覚えのある顔がこちらを不審げに凝視していた。
 
「あ、綾小路じゃないか。レポートの資料集めか?」
 
 綾小路行人──まさしく社会学部西洋民俗学コースの学生で、日野の同期生だ。同じゼミの大川大介と交際しているなど、様々に噂される有名人である。
 日野もまた【優秀な学生】として有名だったので、学部は違えど多少の面識がある。
 
「挨拶はいい。それよりさっきまでそこにいたのは坂上君だった筈だ。どういうことなのか説明してくれ」
 
 笑ってごまかそうとした日野を睨み、綾小路は静かな怒りをあらわにした。
 坂上とは以前短期のアルバイトで知り合ったらしく、たまに擦れ違えば仲睦まじそうに言葉を交わす。日野はそんな綾小路を当然快くは思っていなかった。
 
「お前の見間違いじゃないか?」
「しらばっくれるな。僕は確かに見たんだ、坂上君がその子に変化するところを。それに、どうやら悪魔が関わっているみたいじゃないか」
 
 それを聞いた途端、【恵美】は引っ込み、坂上の姿に戻る。
 
「日野先輩……綾小路さんは、悪魔召喚の専門家です。相談してみませんか?」
「何だって?」
 
 坂上の言葉に、綾小路は真面目な顔で頷いた。
 
「話してくれ。僕なら力になれるかもしれない」