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カフェというほどもなく、喫茶店よりあたらしく

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 甘い声で新人歌手が唄う、知らない歌だ。どうやら昔流行った曲のカバーらしいとぼんやり思う。有線の流れる音以外一切しない店内は、午後三時とは思えない静けさだ。
外はどんよりと曇っている。朝、出掛けにちらりと見た天気予報では午後から雨だといっていた。本当に一雨来そうだ。降られる前に帰ろうと思い席を立つと、ひかえめに声をかけられた。
隣に座っていた、同年代らしい女が声の主であった。ひとつにたばねられた髪が、どことなく幼さを残す。リクルートスーツが似合っていなかった。まだ制服を着ていても違和感のない頬をしている。薄く申し訳程度にマスカラが塗られた睫毛が縁取る瞳がこちらを向く。
「中川、くん、だよね」
どうやら知り合いらしい。今一度腰掛け、頷く。さて、こんな童顔の同級生がいただろうか。
「あ、や…一方的に知ってて…高校のとき、隣のクラスで」
どうやら訝しげな表情をしていたらしく、童顔の彼女は説明してくれた。
「二年のとき、二組だったでしょう?わたし三組だったの」
「へぇ、」
なんというか、それ以上言葉が出なかった。興味がないわけでもないが、かといって懐古談が盛り上がる程共通の過去を共有しているわけでもない。非常に微妙な感じだった。
「ごめんなさい、こんなことで呼び止めて」彼女は本当に申し訳なさそうに云った。顔が真っ赤だった。何だか悪いことをしている気分になった。
「名前は?」
「新井です」
「三年は何組?」
「四組」
「帰ったら卒アル見とくわ」
ちらりと時計を見て席を立つ。別に急いでいるわけではなかったが、雨に降られたくはなかった。
新井は少し微笑んで頷いた。

会計を済まし、外に出る。
雲の隙間から夕日がさしていた。もう少し話せば良かったかもしれない。
なんとなく思った。