予感はしたのだ
何でもない日だったはずだ。テツが仕事から帰ってきて、お風呂に入って、二人でご飯を食べて、そして別々の部屋に戻って眠る。
いつもどおりの、そんな日々を壊したのは私だ。
テツがベストを脱いで、さあ風呂に行こうとした瞬間問いかけた。
「ねえ、私はだれ?」
「は?お前はお前だろう?」
怪訝そうに眉をひそめる。
「私は、何でここにいるの?」
「いるからいるんだろうよ」
「なんでテツは私を育ててるの?」
育てる、そうだ。私とテツに相応しい言葉だった。住む場所と食べ物を与え、大きくなるのを見守る。これほどまでに育てるという言葉が会う行為があるだろうか。
「・・・、」
「云えないの?」
テツは首だけで頷いた。
「これも、依頼?」
テツが近寄ってきて、わしゃわしゃと頭をかき混ぜられた。
「ごめんな」
ぶわっと泉のように、涙があふれてきた。やっぱり私とテツは血のつながりなんか何にも無くて、テツは依頼を受けたから私を育てていたのだ。きっといつか、テツは私を手放す。
「でも、今は俺がお前の家族だよ」
「かぞく・・・」
「そう、依頼がなくても、俺はきっとお前を育てるよ。お前は大切な俺の家族だ。いつか話す。そのとき俺を嫌っていい。軽蔑していい。だからそれまで仲良く暮らそうぜ」
テツと握手した。
「それまでよろしく」
多分私の顔はうまく笑顔になっていなかっただろう。けれどやさしいテツは、何も云わなかった。