世界の果てへ、どんぶらこ
「きみはだれだい?」
(無言)
「この先はどこだろう?」
そういって明るいほうを指差す。その指の、まっすぐさがおそろしかった。光っているのは平気だ。光はそのうち消えて闇になることを知っている。私は昔光で、そうして今闇だった。
「ぼくは明るいの、素敵と思うんだけどなあ」
私に聞かせているのかよく分からない。けれど独り言にしては幾分大きな声で彼は云った。そう、彼は光を目指す健全な若者だった。
「君もいっしょにあちらに行かないかい?」
私は首を振る。
「なぜ?」
「・・・私は、光が闇になることを知っている。私は昔光で、今は闇だ」
彼は目を丸くして、まじまじと私を見た。私は久方ぶりの視線というものに、いづらさを覚えた。
「なんだい!君はあっちを知っているのかい。なら是非一緒に行こう」
彼は私の手を取った。彼の手は、あたたかかった。今から輝く存在の温度だった。私の冷たくて疲れた手は、燃えカスのようだった。
「君、手が冷たいね。なおさらあたたかいところに行かなくちゃいけない」
彼は振り向きもせず云った。視線は明るいほうからそらされることが無い。その視線の真っ直ぐさが、とても気持ちが良いものに思えた。
作品名:世界の果てへ、どんぶらこ 作家名:おねずみ