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生きはじめたもののあまいにおい

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 「なんか、赤ちゃんのにおいがする」
里香は呟いた。おんぼろの、一度も洗濯されたことが無いであろうカーテンがはためく。日のひかりがさして、机がひだまりのにおいになっていた。そっと頬を寄せると熱が伝わる。
「あんたのにおい?」
里香の見つめる先にいる少年は、二、三自分の制服をかいでみて、自信なさげに頷いた。
「あんたの家、赤ちゃんいるの?」
「うん」
「いくつ?」
「七ヶ月」
へえ!里香は感嘆の声をあげた。
「男?女?」
「おんな」
「そりゃよかったね。きっとあんたに似て器量良しになるよ」
にっと歯を見せて笑った。
少年は、器量良しと云う古めかしいいいかたがツボにはまったらしく、口元を隠して笑っていた。

とおくでチャイムの音が聞こえた。
平和なひと時であった。