PE-3town/楽園の名前
私たちの住むPE3特別行政地区は、国家という概念から切り離された存在だ。創設当初は各国の国連負担金で建設が開始され、国連直属都市として30年前に開かれた都市だ。
ここにはありとあらゆる人種・宗教・思想を持つ人々がいる。整然と作られた非常に人工的な匂いのする都市だ。人々はここを「地球最後の楽園」に引っ掛けて「地球最初の楽園」とよぶ。
私はこの「地上最後の楽園」がどれ程楽園なのかよく知らない。比較対象を持たないからだ。私はここで生まれ、ここで育った。何も不自由は無い。時々、私のクラスメイトの中には外の世界を見たいといって飛び出していく子もいるけれど、彼らはいつも憔悴しきった顔で戻ってくる。曰く「外は地獄だ」。
そうして彼らはかごの中の鳥に戻っていく。それが悪いことだとは思わない。
私が出て行かないのと同様、それもひとつの選択だからだ。
「マージ!」
肩に軽い衝撃と、名前を呼ぶ声に振り返るとアノイがいた。アノイは一度、ここの外に出たことがある。
「もう帰るの?」
「この都市はなぜ見つからないんだ?」
「光の原理を利用してるらしいわ、よく知らないけど。ステルスに利用していたのを応用してるって」
「はあ、なるほど。そりゃレーダーマップにも映らないはずだ」
「あなたは?」
「俺?俺は旅人さ」
作品名:PE-3town/楽園の名前 作家名:おねずみ