ボクラノ 3
レッドカーペットが敷き詰められたその廊下から起き上がり、所々備え付けられた窓の外を見る。
すると、目に飛び込んできたのはまず雲。そして雲の上に建つ建物。
なんだここは、混乱状態に陥り、自分たちをここへ連れて来た張本人を探すが、どこにも見当たらない。
しかし、どこかも分からない場所をうろつくのは危険だった為、とりあえず、目の前にある大きな扉を開けてみる。
そこは誰かしらの自室だった。
失礼ながら中に入ってみると、二つのベッドとテレビ、ソファー、そして棚。そして洗面所と、どこかのホテルのような、何もない部屋だった。
それにしても相変わらず、あの“空間が歪んだ”感覚が抜けていない二人は、誰の物かも分からない部屋のベッドへ身を投げ出した。
ここがどこなのか、何のためにここへ連れて来られたのか、全てが分からないけれど、ベッドがとても柔らかくて、二人は混乱していた頭を徐々に落ち着かせていった。
が、落ち着いていた所で、その声は突如響いた。
「リラックスしているようだな。」
「!!!」
二人は反射的にベッドから起き上がり、気配もなく現れたその人物を警戒の眼差しで見る。
「まあそう睨むな、言っただろう、俺はお前たちを必要としていると。」
「…何で、僕らなんか。」
「僕らなんか…か、お前たちは、100年以上前から語り継がれている、とある神話を知っているか?」
その昔、神は人間を作った。
その人間たちは、神が思った以上に繁栄し、豊かな国々を自分たちで作り上げていった。
しかし、豊か故に、殺し合いが発生しはじめた。
それを見た神は、5人の神の子…つまりは天使を作り出した。
神は天使に、罪を犯した罪人を、厳しく罰せよと命令した。
その命令を受けた5人の天使たちは、人間の「赤ん坊」として人間の母親のお腹の中に入り、やがて成長して神直属に受けた命令を実行する…という、話だ。
その質問に対して、二人はもちろん、と言ってみせる。
満足そうに笑った煉は、途端、悪役のような顔になる。
びくりと肩を震わせる二人を見、くっくっと恐ろしく笑った。
「その5人の神の子の中のお前たちが、そんな事を言ってはいけない。」
「…………え?」
理解出来なかった。
なんせ、二人はそんな話信じてはいなかったのだから。
自分たちが、その中の二人?
どうして自分たちが?つまり自分たちは…
「お前たちは天使だ。……ここは天界、お前たちの在るべき場所。」
「っ、しょ、証拠は?!証拠は、どこにあるんですか!」
「…証拠?」
「証拠もなしに、そうと決め付けるのはおかしいじゃないですか!!」
反発する二人に、煉はまた可笑しそうに笑う。
「そうだな、確かにそれもそうだ。今から俺が言うこと、それが証拠だ。普通の人間なら、天界になんか居れん、内臓も、その体もバラバラに吹き飛んでいる。」
「そんな…」
「…まあ信じられないのも無理はないが、どうしても、と言うのなら…試してみるか?」
恐ろしいことを言う。それに二人は大きく首を横に振り、うつむいて呟いた。
「……分かりました、まだ、信じられないですけど…、よろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそ。…おかえり、優輝・翡翠。」
この黒ずくめの人物のせいで、二人が望んでいた平穏な生活は一瞬にして奪われていった。
さようなら、ボクラノ日常。