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Snow on Soul ―特別なもの―

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吹雪の雪原と体温




 真っ白な一面の雪。自分がこの土地で生まれてからもうだいぶ長い時間が経った。その間に、どれくらいこの景色を見たことだろう。イザヤはふっと窓の外を見て思考に沈む。こうやって時間について考えることは、ヴァンパイアにとって非常に意味のないものであり、感傷と呼べるもの以外の何物でもないことは知っている。しかし、知っていてそうせずにはいられない時もあるものだとイザヤは最近、特にそう思う。
 ヴァンパイアとは言っても、人血が必要な存在ではなく、ただ人間よりも遥かに長い時間を、時に永遠と言われる時間を、非常に、とても緩やかな老いという現象とともに生きていくだけの存在で、傷がつきにくいだけのあり、それ以上でもそれ以下でもない。確かに、あらゆる生物の精気を食事に変えることはできるものの、味覚という感覚を楽しむことも好きな連中が多いため、そうそう精気を吸うこともしない。
 最近、ヴァンパイアと名乗って人を襲う連中に関しては、ヴァンパイアの間でも話題にはなっている。なんだ、あの意味の分からないやつらは、といった程度ではあるのだが。まぁ、確かに気が向けば漆黒の翼を広げて空を飛んだりはするものの、異常なくらいに気力を使うものであるから、イザヤもイザヤの双子の妹もその行為はあまり好きではない。
 色々な思考の糸を同時に掴み、絡ませながら窓の外に目をやると、外は一層吹雪の様子を呈している。この調子ではしばらく吹雪は止みそうにもない。イザヤの双子の妹たちが城へ戻ってくるのは、きっとまだしばらくかかるだろう。領地からのいくつかの書類に目を通しながらイザヤは妹たちのことと、いくつかの答えのでないことを考える。
 暖炉で赤々と燃える炎は、ぱちぱちと爆ぜて静かな音楽を奏でる。足元に敷いてある絨毯は今年新調したばかりのもので、肌触りがとても素晴らしく、双子の妹もとても気に入っていて自分たちの部屋もこの店のものに変える、と駄々をこねたのを去年変えたばかりだからだめだ、とキツクいい含めたほどだった。緩やかな時間が、ひたすら流れる。ゆったりとした時間はまるで暖炉のそばでまどろんでいるような流れで、何度も思考の邪魔をしてくるものの、それに負けずに自分の執務をしているのはさすが、オリハラの嫡男といったところだ。
 その時、いっそうびゅおおおぉぉと風と雪が窓をたたいた。
 その音にふっと手を止めて外を眺める。紅の瞳がその向こうに何かを探すようにすっと細められる。自分が望んでいたものは、何一つそこにないというのに。
「そういえば・・・・・今年で何歳だっけ・・・・」
 誰もいない部屋にぽつり、と落とされた声は非常に無機質でありながらも、それゆえに何かを渇望しているようにも聞こえた。
 かの女性の、唯一の忘れ形見は今頃何をしているのだろうか。この吹雪ではさすがに外に出ることを許してくれる義父母ではないだろう。あの夫婦は、自分の子供と同じように血のつながらない彼のことも、大切にしているから。きっと、弟と退屈をもてあましつつ、暖炉のそばでうとうとと舟を漕いでいるのかもしれない。ふっと、そう思うとどうしようもなくやるせない気持ちがこみ上げてきた。かたん、と持っていた万年筆を置く。それまで書いていた書面にインクの滲んだ様子は一切なく、イザヤの手の素晴らしさを物語っている。
 一度万年筆をおいてしまうと、再び手にとって執務を始める気持ちにはなかなかなれない。今日はよくやった、と自己へ評価を下して、ぐっと背伸びをして立ちあがると、何とはなしに吹雪に晒された窓に触れる。ヴァンパイアというのは冷たく、極端に体温の低い存在だとは言われるものの、そのイザヤが触っても窓はしん、と冷えている。
 ふらふらと室内を歩いて、イザヤは暖炉の近くにある安楽椅子へと腰を下ろす。端正な顔立ちは短めに切られた漆黒の髪に縁どられ、肌の白さがいっそう際立つ。足を組んで椅子を揺らすでもなく、肘をついて頬づえをつく。暖炉の火は確かに温かいと感じることができる。その温かさとぱちぱちという音は、いわゆる、幸せな家庭を思わせる。
 決して、自分が育った家庭が不幸だったということはない。確かにヴァンパイアという家庭で育ちはしたものの、両親は悪いことをしたら叱ったし、良いことをした時にはオーバーなくらいに褒めてくれ、二人の妹ともわけ隔てなく愛してくれた。もう、数百年以上生きている祖父母も、おじも、おばも、皆、慈しみ、愛してくれた。そして、いまでもそれは変わらない。そういう環境で育った割には、イザヤも双子の妹たちも歪んで育ってしまってはいるのだけれども。
 まさに絵に描いたような幸せな家庭で育った。そう、幸せな家庭で育ったのだ。だが、彼の女性はどうだろう。彼女の忘れ形見はどうだろう。たとえ二人であっても、たとえ貧しくても幸せな家庭を築けるはずだった。彼女たちには、その権利も、義務も、資格もあった。それなのに、馬鹿な占いのせいで、すべてを壊されてしまった。
 真っ白な吹雪の雪原に、ただ黒く、一点だけ、影が落ちるのを感じた。