小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

うみをわたる

INDEX|1ページ/1ページ|

 
 狭い世界に理想も現実もないと分かってはいても、細い石段を両腕でバランスを取りながら歩く私は理想主義で、その横の道路を歩く彼は現実主義者だ。
 「世界の終わりが来るときは、きっと歌が聴こえるよ。終末の歌」と私が言えば、彼はこう言う。「世界っていうのは自分の目を通した今見える景色の全てのことだ。だから、死んだらそれが世界の終わりだ」と。噛み合なくたって冗談なんかじゃない、彼は大真面目で、だから私は一層大真面目に自分を信じてみる。私の終末の歌はどんなメロディだろう。誰かの終末の歌は潮騒にかき消されて、きっと私には届かない。今私の歌う歌だって、彼に空の永遠と未来を信じさせるロマンスにはならない。
 だけど歌は願いそのもので、私の願いは海を渡り、誰かに届くのかどうかは知らない。だから、私が疑いなく信じる神様の存在を疑ってやまない彼が、今私に笑いかける理由も、今は知りたくない。
 波打つ海が見える。夕空に黒くて青い闇が絵の具の様に滲む。夜も、夜明けもその先も、きっともう、すぐ。
作品名:うみをわたる 作家名:若井