うみをわたる
「世界の終わりが来るときは、きっと歌が聴こえるよ。終末の歌」と私が言えば、彼はこう言う。「世界っていうのは自分の目を通した今見える景色の全てのことだ。だから、死んだらそれが世界の終わりだ」と。噛み合なくたって冗談なんかじゃない、彼は大真面目で、だから私は一層大真面目に自分を信じてみる。私の終末の歌はどんなメロディだろう。誰かの終末の歌は潮騒にかき消されて、きっと私には届かない。今私の歌う歌だって、彼に空の永遠と未来を信じさせるロマンスにはならない。
だけど歌は願いそのもので、私の願いは海を渡り、誰かに届くのかどうかは知らない。だから、私が疑いなく信じる神様の存在を疑ってやまない彼が、今私に笑いかける理由も、今は知りたくない。
波打つ海が見える。夕空に黒くて青い闇が絵の具の様に滲む。夜も、夜明けもその先も、きっともう、すぐ。