自由詩まとめ
九編目 声が聞こえた
「大丈夫、僕が見ているよ」
誰かが言った そう言った
びーびー泣いてる私に言った
「嘘つき、うそつき、うそつき、うそつきぃっ!!」
北風に乾いた水分で にかわみたいに張り付いた瞼をセーターで擦って
落ち葉と芝生をざくざく踏んで そう絶叫した 16の秋
「ちゃんといるよ、見ているよ」
誰かが不意にそう言ったので 手の踵で鼻水をごしごし拭った。
「要らないよ、要らない。そんなものいらない、いらないっ!!」
軒下のつららから ぼたぼた垂れる涙と鼻水を見上げた
泣き疲れた頭に 自分の呟きが ぐわんぐわんと響いた 17の冬
「ほらいない。だれもいない。うそつき、いらない、うそつき、うそつき」
ざくざく踏む残雪と一緒に響く その声は掠れていた
私の声 ざくざくと雪 私の声 世界は真っ白
泣いているように聞こえるのは 風が強くて耳が痺れたから
耳が痛い 頬が痛い 目が痛い 鼻が痛い 心が痛い それはさむいから
何も聞こえなくなった、18の終わり
……不意に、背中に暖かな重さがのし掛った。
どうやら背中から抱きしめられたらしい
「ここに居るよ、側にいるよ、ここで見てるよ、ずっと見ているよ」
今まで聞こえなかった分が 春風の中で 一気に爆発した
そうして私は死んだのだ 生まれ変わった 19の春
夜の春風はなまあったかくて ちからづよく
まるで人間のおんど みたいだった