花星
時計を見ると休日にしては早い時間だ。
とりあえず朝飯を作る。
そして食べて、やることもないから気の向くまま自転車でフラフラと遠出する。
変わらない街並み、変わらない日常。
この街に来て10年。都会の喧騒にうんざりして、新しい生活に憧れてこの地に来たが何も変わらなかった。
変わったことと言えば友達の誘いで都会に行くのに時間がかかるようになったぐらいか……。
ただ惰性で、時間に流されて、運命の輪の中をハムスターのように走るだけの人生。
生活空間も籠の中だけ。
いつも変わらない餌を与えられて、好物がくることなんてないのを知ってるのに期待している。
犬のように宇宙にいって死して人の役にたつこともない。ただ与えられた世界に、地上で這いつくばるだけ。
そんな人生をおくってきた。
気がつくと夕方だ。
今日は特に暑いから家に帰ってエアコンでもかけて、冷えたビールを飲みながらネットでもしよう……
そう思った時、携帯が鳴った。電話だ。夕日に照らされて見にくい液晶には最近連絡のなかった、懐かしい友人の名前がうかんでいた。
もしもし……
「よう、久しぶり!元気か?」
まぁそこそこにやってるよ……今日はどうした?
「いやぁ、実は今お前の家の近くにいるんだけど……」
なんでいるんだよ(笑)!?
「今日夏祭りだろぉ。この辺では一番でかい花火大会だから遊びに来たんだよ!いかねぇか?」
正直夏祭りや花火なんて興味はなかった。それよりもゆっくり部屋で撮りだめしたテレビを観たかった。
でも懐かしい友人の誘いだし、付き合いが悪いと思われるのもどうかと思った。
……わかった。いくよ
「じゃあ今からおまえんちに…」
今外出してるから部屋にいないし、準備に手間取るぞ
「了解!じゃあ、○○公園の時計前に1時間後に集合な!!俺場所取りとかしとくよ」
分かった。後でな
電話を切った。
とりあえず部屋に戻って準備して行こう。
……にしても男二人で夏祭りとは、むさいな。
夏祭りなんて高校生の時に付き合ってた彼女と行ったのが最後だ。
その彼女とは受験戦争の渦に巻き込まれているうちに恋の熱が冷めて、大学にあがると同時にわかれてしまった。
それ以来、恋愛なんてしてなかったな……
まぁ、高校生の恋愛なんてただの茶番に過ぎないけどな……
集合場所に早めに着いてしまった。
最近タイトルに惹かれて買った小説でも読むか……
友人からは場所取りに手間取って遅れるとメールが来た。
……そもそも花火みるのに場所取りなんているのか?
そんな疑問、考えても仕方がない。
本を読むことに集中した。
しばらくすると友人が息をきらしながら走ってきた。
案内された場所は祭りの会場から少し離れた茂みの中だった。
何故かカメラの設置された天体望遠鏡が据え置かれていた。
友人にこれは何かときいても後で分かるとしか答えてくれない。
なんでこんな薄暗い場所で男二人で花火なんだよ……
明らかに「アッー!」な展開しか思いつかない……
そんなことを言っていると……
ポンッ
「キタ━━(゜∀゜)━━━!!」
花火があがる度に友人のテンションが上がっていく。
ポンッポンッ……ポンッ
「キタキタキタ ━━(゜∀゜≡゜∀゜)━━━!!」
……落ち着いてみろよ(笑)
そうは言うものの、自分のテンションも少しずつだが高揚していった。
何だろうな……この懐かしい感覚。
青春の頃に少しだけ帰ったかのようだ。
1時間ほど友人のテンションは上がりっぱなしだったが花火も残すところ後一発。
ポンッ!
「ラストオーダー、キタ━━(゜ ∀゜)━━━!!」
何がラストオーダーだよ(笑)
「あぁ……花火終わったな!」
……終わったな
自分の胸が普段の冷房に冷やされた冷たさではなく、どことなく温かくなっているのに気がついた。
気分も軽い。
「だけどこれがメインディシュじゃない!!」
え?
「さぁさぁ!そこのシートに寝そべった!!始まるよぉ~」
なにがだよ?
とりあえず友人に言われるがままにビニールシートの上に寝そべった。
友人は天体望遠鏡の近くにキャンピングチェアを持ってきて何かを今か今かと待っていた。
すると……
あっ!
「きた!!」
夜空を一筋の光が走った。
小さな輝きだが、それは……
流れ星か!!
「そう!お前知らなかったろ、今日がペルセウス座流星群の極大日だって!!」
……そういえばお前、天文部だったな。どおりでこんな田舎まで遊びに来るわけだ
「難しいけど、流れ星の写真が撮りたくてな」
……たまにはこういうのも悪くないな
気がつくと夜空は流れ星で埋め尽くされていた。
今この空の下、何人の人があの星々に祈っているのだろう。
大衆的なことは好きじゃないけど……
今だけは、こんなハムスターみたいなやつでもこの流れ星に願わせてくれ。
これから先のことを……