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色彩りキャンバス

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07.結局何も知らずに聞けないまま



話の始まりはティアの一言から。

ねぇ、ガイはいつからあんな音機関が好きになったの。

話しを振られたルークは一瞬、止まった。止まって何回か目を瞬かせた。そうして、空を見上げて首を傾げた後、よく覚えてない、と答えた。
それにしてもなんてタイミングで話しを振るのだろう。
ルークは、先ほど着いたばかりのシェリダンの入り口あたりで勇ましく町に消えて行ったガイの背中を思い出した。
それを一人で見送ったと思っていたらティアの一言。
だけど一人で見送ったと、どうして思ったのだろう。ルークは考えた。分からなかった。
あ、それあたしも気になってた、とアニスがルークの背中に張り付いてきた。
彼女は何気なくだけど、ボディスキンシップが多い。気がついたときには、もう既に抱きついているか、張り付いている。
そして、誰も嫌がらないこといいことに、少し最近は過剰になってきた。
はじめのうちは、身体を僅かに寄せてくるだけだったのに。(でもそういえば約一名アニスのそれに悲鳴あげるなぁ、とルークはぼんやり思う。それでも近頃は、克服してきているようだけど)

そだ、ナタリアも知ってるんじゃないの。

アニスはルークに張り付いたままナタリアに顔を向けて、それからルークの胴回りにしがみついた。
ルークは、少しよろめく。
ナタリアは首を小さく傾げた後、上品な仕草をして悩みだした。いちいちやること成すこと品がありすぎる、とアニスはぼそっと呟くが、ナタリアはそれには気づかずに緩く頭を振った。
そして、詳しいことはなにも、と言うだけで、やはり殿方はああいうのが好きなのでしょうか、と遠い目をした。あのナタリアの表情には覚えがある、そこに居た誰もが思った。
あれは明らかにアッシュのことを考えている顔だ。いつでもナタリアの思考は、キムラスカの民とアッシュに向けられるのだから分かり易いといったらなんのその。
アニスはあからさまに溜息を吐いた。
「で、ルークもきっかけとか知らないの?」
ぎゅう、と背中から回されたアニスの両腕に力が込められた。
これはもしかして甘えられてるのだろうか、とルークは思うけれど、アニスの言葉に素直に頷いた。

うん、知らない、かな。

そう言った後、ルークは少し後悔をした。少し淋しく聞こえたかもしれない、と思ったのだ。
沈んだ顔なんて見せても困るだけで。あれ、でもいったい何に傷ついたのだろう、とルークはふと思い当たった。分からなかった。
アニスは、へえ、と意外そうな顔をした。
ルークでもガイの事で知らないことあるんだねー、とぐりぐりと頭を背中に押し付けながら言い、ルークはそれに背中をのけぞる。
「ちょっ、痛ぇ! あの、すいません、アニス様。だいぶ痛いです」
「えー、だって、ルークの肩がとっても項垂れてたから、お灸を・・・」
ぐりぐり、と背中を押される。
痛い、とルークは言うけれどアニスはなかなかやめてはくれなかった。
そのうち、宿を手配して戻ってきたジェイドに、子どもを苛めてはいけませんよアニス、と爽やかに、だけど何も手出しをせずに通り過ぎて行った。それにティアが、呆れた顔をして溜息をついた。
「・・・とりあえず、アニス。もうやめてあげて」
「ぶーぶー。あのね、そもそもはルークの落胆っぷりがいけないんだよ?」
俺のせいですか、とルークはアニスから自分に指された指先を苦笑した。
やっぱり失敗していたのだ。淋しく聞こえてしまったに違いなかった。
「でも俺、ほんとにちょっと、・・・なんつーの? 淋しく思ったんだ。あんなに長く居たのに、俺、あいつのことそんなに知らないんじゃないかって」
アニスはルークに向けていた指先を下ろした。
ティアが静かにルークに視線を移して、口を開けてそれでも閉じた。言いたいことはあるけれど言葉にするのには躊躇われた。そんなのばっかりだ、と誰もが思った。
そんな静かな沈黙が続いてから、突然大袈裟な溜息が聞こえた。

ルーク、殿方がそんなに肩を下ろすものではありませんわ。

アッシュという世界から帰ってきた、ナタリアだった。
アニスが「あ、帰ってきた」と独り言で呟いたのがルークとティアに聞こえた。
「知らないというなら、今から知っていけばいいのです。何を戸惑う必要があるのです、もっと堂々となさい」
「え、と」
「ほら、しゃきっと! ガイが音機関ばかり夢中になっているというなら、聞いてみるといいですわ。自分と音機関のどっちが大切なのか、と!」
「え、あの、ナタリア・・・?」
握りこぶしを作るナタリアの説教に、ルークは少し口を引き攣らせた。
アニスがルークの背中に張り付いて胴に腕を回したまま、さすがナタリア!と拍手喝采をするものだから、それにつられてルークも頼りない拍手をした。
「開き直っちゃえばこっちのもんだね、ナタリア」
「そうですわ、くよくよと過去のことを悩んでいるなんて私らしくないですもの!」
「うんうん。是非とも、うじうじなルークに喝をどうぞ」
ティアが、論点がズレてる、と頭痛のする頭を抱えて、それでも拍手をするアニスとまだ続くナタリアの説教と、困ったように笑うルークに、ティアはひっそりと笑った。

結局、ガイが音機関好きになったきっかけを知るのは、もう少し先の話。


作品名:色彩りキャンバス 作家名:水乃